著名人も強く関心!「種苗法」改正の大問題 野菜や果物のタネに「著作権」は必要なのか

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交配で生み出すハイブリッド種子は、一代に限り品質が安定しよく育つので、多くの生産農家が購入する。ただタネを採って自家増殖した場合、第二世代は品質にばらつきが出るので、二次利用に向かない。一方で交配しない固定種(在来種)は、何代も安定して生産できる(写真:サカタのタネ)

著名人がこの問題に言及し、賛否が沸き上がった――。

生鮮な野菜や果物にも著作権はあるのか。新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛で、ネット通販サイトを通じた高価なイチゴやメロンなど特産品への注文が急増。マンションのベランダでミニトマトを育てる自家栽培のブームも起きた。そんな矢先、生産農家の経営を左右しかねない、重要な法案が大きな議論となっている。

これは3月3日に閣議決定され、今国会で成立を目指す動きがあった、「種苗法」の改正案だ(結果的に見送り)。登録品種のタネや親苗を農家が無断で二次利用しづらくする、種苗法の制限強化が主な狙いである。対象は穀物や野菜類、草木など、すべての新品種。政治家のみならず著名人たちがSNS等で言及したことでも有名になった。

では農業分野で種苗の知的財産権の保護を強める狙いは何なのか。年間2.3兆円と、コメを3割上回る農業算出額がある野菜類を中心に、種苗メーカーの動向と絡め、その一端を垣間見た。

食料自給率を高めるには豊富なタネが条件

種苗法という法律は一般になじみが薄い。改正されても家庭菜園での利用に影響が出ることはない。しかし、新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、海外との人やモノの移動が制限されて気づくことがある。それは年々低下し今や4割を切った、食料自給率を高める必要があることだ。前提として作物栽培の原点とも言えるタネが日本で豊富にあることが大事となる。

一説には農機やハウス、農薬といった農業資材トータルの年間コストで、種苗は全体の3%から8%程度という。穀物の種苗は、国や地方公共団体が管理していることもあり、相対的に安価と言えるかもしれない。

日本の種苗開発の現状と問題点を研究課題とする富山大学経済学部の神山智美准教授はこう語る。「種苗の品種開発や改良は、農薬の独自品開発と同じように試験を含め、約10年。市場に出した後は、幅広い農家が撒いてくれないと開発コストを回収できないし、採算事業として成り立たない厳しい世界だ」。

これまで日本では、品種改良された種苗の国際的な権利保護や活用は、音楽作品や工業製品と比べて大きく立ち遅れてきた。営利目的にもかかわらず、親苗を他者に譲る、あるいは盗むケースが後を絶たず、国や地方自治体、農協の対策は後手に回っていたからだ。

一例を挙げよう。

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