がん告知された38歳が全力で仕事に挑んだ理由

会社員として、父親として抱えた葛藤

2019年6月に花木さんが個人で開催した、がん患者への寄り添い方セミナー(写真:筆者撮影)

一方で、花木さんはPR提案を諦めたわけではなかった。社内の営業部にも同じ提案を行い、ユーザー企業で講演する機会をつかむ。結果は好評で、全国展開する企業の複数の支社を、縦断形式で講演して回ることになった。

「ユーザーの方々に直接お話しすることで、実際に使わないとわかりづらい自社サービスを、より具体的に伝えられた手応えがあり、自分が会社の役に立てているという実感を持つこともできました」(花木さん)

結局、収入減は解消できず、がん発症で社内昇進の道も遠のいた。だが、彼はがんを実名公表し、サービス利用体験をPR業務にすることで、葛藤していた社内での存在意義を見いだすことには成功した。

一部の人たちの“善意”と治療との間での苦悩

治療中の花木さんが悩まされたものに、一部の人たちの“善意”がある。

「大別すると、一方的な情報提供と激励でした。前者は『◯◯クリニックの◯◯療法がいい』とか、『食品の◯◯ががんに効くらしい』という情報提供。後者は、『がんに絶対負けるな!』という、根性論っぽい激励です」(花木さん)

念のために明記しておくと、彼のことを心配して寄せられた多くの情報提供や、励ましはそこには含まれていない。

前者の場合、花木さんや家族も必要な情報は収集している。だが、よかれと思って、科学的裏付けも乏しい健康食品や、民間療法などの情報提供をしてくる人たちも一部いた。その中には、彼に利用されていないと知ると「せっかく教えたのに……」と、一転して嫌悪感を示す人もいたという。

また、がん当事者にも気持ちの浮き沈みが当然ある。後者の根性論っぽい激励も、花木さんの気持ちが弱っていれば、逆にストレスの原因になりやすい。

どちらの場合も、花木さんの不安定な心身状態への配慮を欠いている。しかも、善意が前提だから、結果として、自分が相手を困らせている危険性にも無自覚なことが多い。花木さんも表立っては断りづらくて、悩みの種だった。

がん専門医の押川勝太郎さんは、がんは同じ部位とステージであっても、効果的な治療法が微妙に異なることもある、個別性が高い病気だと指摘する。

「主治医と患者は個別性を踏まえ、標準治療(手術・抗がん剤・放射線)から最適のものを決めて取り組んでいます。その経緯や内容も知らずに、周りの人が民間療法や飲食類を無理強いすることで、病院治療との板挟みになって、苦悩されている患者さんも実際に多いんですよ」

押川医師は、むしろ患者さんにお金を黙って渡し、治療費に役立ててもらったり、自由に使ってもらったりするほうが喜ばれますよ、とも補足した。

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