がん告知された38歳が全力で仕事に挑んだ理由 会社員として、父親として抱えた葛藤

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花木さんも善意が絡む微妙な問題であることを踏まえて、こう話す。

「がん経験者の体調や感情は、つねに起伏があります。ですから本人と一定の距離感を保ちつつ、『何か役に立てることがあれば、いつでも声をかけて』といった寄り添い方が、治療中も、復職後もありがたいですね」(花木さん)

ここで気づく読者もいるだろう。花木さんの話に耳を傾け、自分の意見は棚上げして夫の考えを尊重する。冒頭で紹介した彼の妻の対応がとても近い。

一方で、日本人の2人に1人ががんになる時代だ。

「自分たち経験者から望まれる寄り添い方は、どう接すればいいのかに悩む家族や友人、会社の上司や同僚などにもニーズがあるはずだ」

今回の葛藤を経た気づきが、花木さんを一般社団法人の設立に駆り立てた。

2019年11月、彼は一般社団法人がんチャレンジャーを設立。自身の経験を踏まえ、一定の距離感を保ったうえで、がん経験者への適切な寄り添い方を、世の中に広めるのが目的だ。

会社から「内容によっては兼業可」の代替案を引き出していたことが、ここで生かせた。

「業務としての企業講演と、一般社団法人の活動で、自分ができることとやりたいことが社内外でつながり、強い使命感が今生まれています」

花木さんは口元をふっと緩めて語った。いくつもの葛藤のトンネルを取りあえず、くぐり抜けてきた晴れやかさがあった。

じたばたしないと申し訳が立たない

一方、画像検査上のがんは消えたものの、花木さんの体調変化は明らかだ。

「以前と比べて喉が乾きやすく、食べ物を飲み込む力も弱い。食べるのも遅くなりました。昔は暑がりでしたが、今は室温28度でも寒気がします」

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そんな彼の精力的な活動は、自らの承認欲求を満たしたい面もあるが、「子どもたちのために」という思いが原動力だったと、率直に明かした。

「がんになって収入が減ったからといって、子どもたちの将来の選択肢を狭めたくない、という気持ちが強かったんです。自分ができる範囲でじたばたしないと、息子たちに申し訳が立たないですからね。今振り返ると、その気持ちが自分の最大のエネルギー源だったと思います」(花木さん)

厳しい現状を打開していった彼の突破力は、寄り添ってくれる妻の包容力と、2人の子どもたちへの愛情と葛藤が混ざり合う中から生まれていた。

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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