4月末には、広東省広州市の番禺区の区長と副区長が地元自動車企業「広州汽車」のライブ放送に参加した。田舎の農産物即売から始まった流れは、大都市や他業種にも広がっている。
こうした出演は基本的にはボランティアで、地元産業を助けるために政治家や有名人が一肌脱ぐ、という形になっているようだ。中国のような国では、政府の裏書きは確かな動員につながる。特に国全体の経済が苦しいこの時期、トップが自ら先頭に立ってセールスを行うのは、実際の効果も見込める面白い試みといえるだろう。
広東省広州市政府は、3月末に「ライブコマース発展行動計画(2020〜2022年)」を発表。その中で、2022年までの3年間に100のタレント事務所(MCN)、1000のブランド、1万の著名ライバーを育て上げ、広州を全国でも有数の“ライブECの都”とする、と宣言した。
華南地区はもともと衣服やスマホ、家電など軽工業の工場が多い。省別GDP(国内総生産)で長く1位を保ってきたにもかかわらず、テンセントを除いてめぼしいネット企業が生まれなかった広東省は、ITブームの面では若干流行に乗り遅れた雰囲気もあった。
今後は、こうした産地とサプライチェーンを持つ強みを生かして、経済をいち早く成長軌道に戻したいという意図が透けて見える。
ライブコマースは商流のニューノーマルとなるか
コロナの影響を受けて、会議、教育、エンターテインメントなど、さまざまなものが否応なくオンライン・ヴァーチャル化されている。一部のスタートアップのオフィス解約の動きに見られるように、この嵐が過ぎ去った後のわれわれの生活は以前とは違ったものになるだろう。それが「ニューノーマル」だ。
とはいえ、今までのすべてが否定され、何もかもが新しくなるというのも考えすぎではないだろうか。
4月29日の決算発表会見において、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが「たった2カ月のうちに2年分にも値するデジタルトランスフォーメーションが起きた」と述べたように、今見えている変化の兆しの多くは今までも存在はしていたが既存の仕組みを突破できなかったモノの芽吹きであり、ライブコマースもその一つだと言っていい。
とはいえ、「家を出られない」「人と会えない」という特殊な状況を追い風に急成長した、この新しい業態も決して万能ではない。ライブなので、視聴するのに必ず一定時間を消費するという特性は、日々の生活が忙しい人を遠ざける。質の低い配信者の大量参入によるライブコマース全体への評価毀損のリスクもあるだろう。
これから現れてくるであろう、こうした課題を乗り越えた先に、独特の楽しさを持ったライブコマースのまた新しい形が見えてくるのではないだろうか。
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