取引の座組みにも波乱の兆しが見られた。
実はこれまで、抖音上で配信を行う大多数のライバーは、購入の段階になると外部のタオバオの自店に誘導して成約させていた。何もしなくても外部から送客してもらえるタオバオはもちろん、タオバオ内でライブの予告を見て知った客が抖音に流入するので、抖音側にも利益があったのだ。
そのため、この共生関係はしばらく続いていた。しかしこの日、罗氏が売った商品の半数は抖音の自社ECを通じて販売されたと報道されている。抖音側にとっては“独立戦争ののろし”ということだったのかもしれない。
また、毎日のように「昨日のライブで誰が何をいくら売ったか」がニュースになる現在の中国では、こうしたライバーたちの行為自体が話題づくり・宣伝としての意味合いも持つようになる。
例えば、前出の罗氏が抖音で初めてのライブ配信を行ったのと同じ日、トップライバーの薇娅氏はタオバオライブで1基4000万元(約6億円)の宇宙ロケットを800基以上売ったと話題になった。
このロケットは定価4500万元なので、500万元(約7500万円)引きは大変お買い得だということで、本当に予約者はその場で50万元の手付金の支払いを求められた。これもまた、独立を狙う抖音潰しのためのタオバオ側による話題づくりだったのだろう。
コロナ対策の英雄も「社会貢献」で参戦
ライブ配信は多くの機材がいるわけでもなく、最低限スマートフォンさえあれば始められる。そして、“誰でも成功できる”というハードルの低さをアピールしたいプラットフォーム側もある程度のアクセスを確保してくれるなど、始めやすい環境がある。
4月20日、陕西省金米村を訪れていた習近平国家主席が突然、当地特産のキクラゲを売る若者ライバーの放送に出現。「(ライブコマースは)貧困脱出だけでなく、農村自体の振興にもつながり、大変よろしい」と言い残した。その後数日のうちに、この村の特産キクラゲブランドである「柞水木耳」は12トン売れたという。
また4月28日には、新型コロナ対策の陣頭指揮を執った“時の人”鍾南山博士が、有名配信者とのコラボレーションで飲料メーカーのライブ配信に参加。1時間で835万の「いいね」を集め、100万元以上を売り上げた。
この配信も売り上げの一定比率を貴州省の貧困層に寄付することが約束されており、同省出身である鍾博士は社会貢献の意味合いで参加したという。それ以外にも、武漢への寄付を募る目的で国営テレビ局CCTVの人気キャスター4人がライブを行うなど、こうした「ライブ配信×公益」の例はここ1カ月ほどで急激に増えている。
これらの例は超大物の特例と思われるかもしれない。しかし、中国では農村地帯の貧困を解消しようと政府が号令をかけていたこともあって、昨年後半ごろから省や県などの自治体トップがライブで地元特産の農産物を売るために努力したという美談が何度か報じられていた。この動きはその延長線上にあるといっていい。
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