「コリーニ事件」が突いたドイツ司法の問題点 政治をも動かしたドイツの法廷小説が映画化

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現役弁護士ならではの、法廷シーンにおける丁々発止のやりとりや、そこから浮かび上がってくるエモーショナルな人間ドラマが象徴的だ。さらに本作は、新人弁護士カスパーの成長物語であるということで、彼自身の戸惑い、怒り、哀しみなどを追体験しながら、いつしか物語の世界にのめり込むことになる。

事件の真相に近づくにつれて、カスパーは自分自身の過去、ドイツ史上最大の司法スキャンダルに向き合う ©2019 Constantin Film Produktion GmbH

もともと原作での主人公は、高い教育を受けた優秀なエリートという設定であったが、映画版では社会的に弱者とみなされている主人公が異なる階級の摩擦に悩み、法律問題に対しても直感的にアプローチするような存在に変更された。

主人公カスパーを演じるのは、『ゲーテなんてクソくらえ』『ピエロがお前を嘲笑う』のエリアス・ムバレク。

本作のメガホンをとったマルコ・クロイツパイントナー監督は、「いわゆる弁護士を演じそうなタイプに見えないのがいいと思った。彼のような人は法曹界の中ではアウトサイダーだっただろう。移民だからということではなくて、当時彼のようなタイプが弁護士として成功するとは思われなかっただろうから。そして弱者としての彼の存在が物語にさらに厚みを加えるんだ」と振り返る。

脚色でさらに重厚な物語に仕上げる

さらに映画化に際し、いくつもの脚色がほどこされており、それが非常にうまく機能している。こうした映画ならではの脚色について、原作本の訳者・酒寄氏がシーラッハに尋ねたところ「自分より脚本家の方が、物語作りがうまい」と笑顔を見せていたという。酒寄氏自身も「小説と映画版を比較する楽しみが満載だ」と評している。

被疑者のコリーニを演じるのは『続・荒野の用心棒』をはじめとした200本以上の作品に出演、クエンティン・タランティーノ監督が『ジャンゴ 繋がれざる者』で過去作にオマージュを捧げた名優フランコ・ネロ。若き日に出演したマカロニウェスタン作品などでは野性味あふれる佇まいが印象的だったネロも、年齢とともにいぶし銀の魅力を放つようになった。本作でも重厚な演技で、無口で孤独なコリーニの物語に深みを与えている。

クロイツパイントナー監督は本作を「本当の意味での“良心”についての話だと思う」と語る。とある法律家が織り込んだひとつの法律の言い回しが、市井の人々にどのような影響をもたらしたのか。エモーショナルな物語と、スキャンダラスな時代背景が複雑にからまりあい、観客は「いったい何が正義なのか?」という命題を自問自答することになる。それは現代の日本にも通じるテーマであるようにも思えてくる。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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