「コリーニ事件」が突いたドイツ司法の問題点 政治をも動かしたドイツの法廷小説が映画化
カスパーは、コリーニの弁護を引き受けることになった後に、被害者のハンス・マイヤーが、若き日に亡くなった親友フィリップの祖父だったことを知る。カスパーにとってハンスは、学生時代の自分を支えてくれたいわば育ての親ともいうべき存在。トルコ人の母親を持つカスパーにも優しく接してくれたあの優しい紳士が、なぜこのイタリア人に殺されなければならなかったのか――。彼はコリーニの弁護を引き受けたことを後悔する。
そんな思いに耐えられず、一時は国選弁護士を辞任することを決意するカスパーだったが、対決するマイヤー家の公訴参加代理人で、大学時代に刑法を教わった恩師でもある弁護士リヒャルト・マッティンガー(ハイナー・ラウターバッハ)から「法廷に私情が入る余地などない。弁護士ならばそれらしく振る舞いなさい」と諭され、結局、コリーニの弁護人を引き受けることになる。
ドイツが隠してきた不都合な真実が明るみに
だが、コリーニは殺人の動機については口をつぐんだまま。何の手がかりもないまま、それでもカスパーは1つひとつ丁寧に事件の調査を積み重ねていく。事件の真相に近づくにつれて、やがて彼は自分自身の過去、ドイツ史上最大の司法スキャンダル、そして戦後ドイツが隠してきた「不都合な真実」と向き合うことになる。
原作者のフェルディナント・フォン・シーラッハは1964年西ドイツ生まれ。1994年よりベルリンで刑事事件を専門とする弁護士として活動を開始する。原作小説の巻末にある訳者・酒寄進一氏によるあとがきによると、シーラッハは「ドイツ政界を揺るがすスパイ事件や、映画俳優クラウス・キンスキー名誉毀損事件など、社会の関心を呼ぶ事件を多く手がけてきた」人物だという。
また、彼の祖父はナチ党全国青少年最高指導者、ウィーン大管区指導者を歴任したナチ独裁政権の中心人物のひとりバルドゥール・フォン・シーラッハ。第二次世界大戦のドイツの戦争犯罪を裁いたニュルンベルク裁判で禁固20年の刑を受けている。そんな彼の出自が、小説にも色濃くにじみ出ている。
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