一方で小保方氏は、調査委員会に提出したノート2冊以外に「4~5冊」はあり、「200回は成功している」というSTAP細胞作成を記した実験ノートや1000枚を超えるという画像データを理研に提出していない。論文に対する疑念の払拭は著者の責任だ。なによりもまず科学論文の作法にのっとって、自らきちんと疑念を晴らすべきではないか。
また小保方氏は、調査委員会の聞き取り回数は1回だけで、十分ではないというが、調査委員会は中間報告時点までに3回はヒアリングを行ったとしている。実は小保方氏のいう1回だけとは中間報告から最終報告までの間のことだという。不服申立書自体が、自分にとって都合のいい部分だけを切り取って並べている感が拭えない。
STAP問題と同時期に、論文不正についての調査報告を公表した筑波大学では、対象者へのヒアリングは1回だけで、3時間程度としている。これと比べれば理研の調査委員会はむしろ丁寧に調査を進めているといえる。
「(小保方氏の)言い訳を認めると、日本のサイエンスが世界から笑いものになってしまう」と、ある科学者は懸念する。
もちろん、小保方氏一人に責任を押しつけるのは公平ではない。調査委員会の最終報告では、主要な共著者である理研の発生・再生科学総合研究センター(CDB)副センター長の笹井芳樹氏、山梨大学教授の若山照彦氏にも、データの正当性や正確性に対する確認責任があるとされた。どのような結果が出るか、今後は理研の懲戒委員会に引き継がれることになるが、笹井氏の研究者としての高い評価があっても、重い処分になる可能性がある。
たとえば、2012年に1つの研究室で多数の論文不正が発覚した東京大学では、今も調査が続いているが、責任者である教授は処分決定を待たずに辞職している。ほかの大学でも、おおむね研究室を主宰する教授の責任は免れないようだ。
短期間に成果を求められるプレッシャー
不服申し立てによって、小保方氏が理研での身分を当面保全できたとしても、その後、同氏が希望する研究の継続を理研内部で円滑に進めることはできるのだろうか。他の研究機関に移ることも容易ではなさそうだ。先進的な研究機関に在籍する研究者は言う。「いまは優秀なポスドク(博士号を持つが所属の決まっていない研究者)がたくさんおり、こういう人をチームに入れるリスクは負いたくない」。
科学の世界では、論文の結論が間違っていたとしても、それ自体に責任は求めない。だが、求める結論を恣意的に生み出すために、実験結果という「事実」を変えることは許されないのだ。
STAPに限らず論文の不正は、多くの大学・研究機関を悩ませている。国策によってポスドクが増加する一方、ポストの数はさほど増えていない。不正が起こるのは、行き場を失うことを恐れて不正に手を染める、あるいは研究費獲得のために論文数を増やさねばならず、教授などの上司が研究者にプレッシャーを与え続けることに原因がある、などともいわれている。
また研究費を受けられた場合も、短期間に成果を求められ、それも不正を招く圧力になりやすい。実際、ある大学教授は「最近の若手研究者は、研究費を獲得しやすいテーマを選択するため、研究のスケールが小さくなる傾向がある」と嘆く。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら