コロナ禍でも英国がEUに強硬姿勢でのぞむわけ 移行期間を延長せず、新たな合意なき離脱へ

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医療介護者への拍手を送るジョンソン首相。自らも新型コロナウイルスによる危機的状況から生還したが、EUへの強硬姿勢は変わらず(写真:REUTERS/Henry Nicholls)

コロナ問題で忘却されていた感のある英国のEU(欧州連合)離脱問題が、新たな局面を迎えている。1月末にEUから正式に離脱した英国は、年末までの移行期間中はEUのルールを受け入れ、これまで通り、EU諸国との間で関税や非関税障壁なしの貿易を続ける。その間に移行期間終了後の新たな英EU関係について協議をまとめることを目指している。

過去にEUが他国や他地域と交わした自由貿易協定(FTA)は、協議開始から発効までに平均で6年余りを要している。わずか11カ月の間で包括的なFTAをまとめるのはさすがに困難とみられ、英国は移行期間の延長を余儀なくされるとの見方が多い。英国とEUが交わした取り決めでは、7月1日までに双方が延長で合意した場合、移行期間を1回限り、1年ないし2年延長することができる。

コロナ禍で進まなかった協議

英EU間の将来関係協議は3月2~5日に初回ラウンドが行われた後、EUのバルニエ首席交渉官が新型コロナウイルスに感染したり、対面での大交渉団の協議が困難となったりしたため、一時中断した。4月20~24日にビデオ会議での協議が再開され、5月11~15日に第3回ラウンドが行われたが、ほとんど具体的な進展のないまま終わった。6月第1週の第4回ラウンドで集中討議を終え、6月中に開く予定の高官協議で全体の進捗を確認する予定だ。

英国側は企業の準備期間に鑑み、9月までに貿易協定の大枠で合意できるかを6月中に判断するとしている。合意が難しいと判断した場合、協議を打ち切り、FTA合意なしの移行期間終了に備えた準備作業に切り替えることを示唆している。EU側も議会承認をどんなに急いだとしても年内のFTA発効を目指すなら、遅くとも10月末までには合意が必要としている。

英国とEUは移行期間終了後に関税や数量割当のない自由貿易の継続を求めている点では一致しているが、公正な競争条件、漁業アクセス、法的紛争処理をめぐって対立している。

EU側は離脱後の英国が規制緩和を進め、EU企業が競争上不利な立場に置かれることを警戒している。今後もEU市場にアクセスする条件として、労働、環境、国家補助金に関する規制を緩めないことを求めている。しかし英国側はEUルールの自動受け入れを拒否している。

漁業アクセスに関しては、EU側は英国の排他的経済水域でのEU漁業者の操業継続を求めている。英国側は1年毎に英EU間で漁獲割当を協議することを求めている。司法管轄をめぐっては、欧州司法裁判所の関与を認めるか否かで両者の意見が衝突している。

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