コロナ禍でも英国がEUに強硬姿勢でのぞむわけ 移行期間を延長せず、新たな合意なき離脱へ
移行期間を延長せず年末までに新たなFTAを締結できない場合、来年以降、英国とEU間の貿易は最低限の自由貿易を保障する世界貿易機関(WTO)のルールに基づいて行われる。EUは英国からの輸入品に、英国はEUからの輸入品に最恵国関税を適用する。EUは英国との貿易を、貿易協定を結んでいないアメリカや中国と同様に扱い、税関検査や検疫検査を強化する。このように、合意に基づいて離脱したはずの英国には、別の形の合意なき離脱(FTA合意なき移行期間終了)のリスクが待ち構えている。
現在、新型コロナウイルスの猛威が英国を襲っている。英国の感染者数はスペインやイタリアと並んで欧州内で最も多く、死者数はアメリカに次いで世界で2番目に多い。感染拡大後、英国民の間でブレグジット問題への関心は薄れている。1~3月期の英国のGDP(国内総生産)は前期比マイナス2%とリーマン危機時以来の落ち込みを記録し、4~6月期には同マイナス20%前後の猛烈な落ち込みが予想される。
国民の声は移行期間の延長を望んでいるが
こうしたなか、「今はコロナ危機への対応を優先し、移行期間を延長すべき」との声が英国民の間で増えている。産業界からもコロナ禍の経済打撃と合意なき離脱の混乱による二重苦回避を求める悲痛な訴えが聞かれる。
こうした国民の声とは裏腹に、ジョンソン首相が率いる政権中枢は、「コロナ危機があるからこそ、移行期間の延長はすべきでない」との考えに傾いている。これは、現在EUが検討を進めている復興基金の議論と関係している。復興基金とはコロナウイルスの感染終息後にEU加盟国の経済復興に充てる財政資金を賄うために創設を予定する基金だ。
財政運営に不安を持つイタリアやスペインなどは当初、基金の財源として各国の財政資金を裏付けとする共同債(コロナ債)の発行を求めたが、オランダなど財政規律を重視する国の猛反発にあい、この案は立ち消えとなった。代わりに現在浮上しているのが、来年からのEUの複数年度予算を増額し、その予算を裏づけにEUや基金が債券を発行し、復興基金の原資とする案だ。この場合、債務共有化の範囲は増額するEU予算に限定され、規律重視国の反発を和らげることが期待できる。
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