コロナ禍でも英国がEUに強硬姿勢でのぞむわけ 移行期間を延長せず、新たな合意なき離脱へ

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英国が移行期間を延長する場合はEU予算への追加拠出が求められる。おまけにEUは復興基金の財源に充てるため、当初計画を上回る予算編成を検討中だ。すでにEUを離脱した英国には、EU予算や復興基金をめぐるEUの討議に加わり意見を表明することも投票に参加することもできない。もはやEU加盟国でない以上、復興基金から資金支援を受け取ることもできない。口出しはするな、カネだけ出せというわけだ。

感染終息後の復興に莫大な資金が必要なのは英国も同じだ。EU予算に追加で拠出するくらいなら、自国の復興資金に充てるべきと考えるのも理解ができる。強硬離脱派の間では、コロナ危機の経済的な打撃があまりに大きいため、FTA合意なしで移行期間を終了する影響は無視できるとの極論すら聞かれる。

年末の「新たな合意なき離脱」へ向かう

協議が平行線のまま7月1日の移行期間の延長期限が近づいても、英国側がこの段階でこうした強硬姿勢を変えることはなさそうだ。EU側のかたくなな姿勢を考えれば、過去の離脱協議同様に瀬戸際戦術でEU側の譲歩を引き出す以外に道はない。今月初旬にアメリカとの間でFTA協議を開始したのも、早期締結に向けた秘策があるわけではなく、EU側に圧力をかける狙いが透けて見える。近く日本とのFTA協議も開始する。

今年後半のEUの議長国(半年ごとの輪番制)はドイツだ。責任感の強いメルケル首相が議長国の責任として英EU間の将来関係協議の決裂回避に動くとの淡い期待が、英国側にはあるのかもしれない。

昨年までの英EU間の離脱協議では、期限切れが迫るたびに離脱期限の延長を繰り返した。だが、7月1日を過ぎて移行期間を延長するには、英EU間で新たな協定を締結する必要がある。すでにEUを離脱した英国と協定を締結するには、EU理事会や欧州議会での合意に加え、EU加盟国の議会承認が必要な可能性もあり、そのハードルは以前と比べ物にならない。

このまま移行期間を延長せずに7月1日が経過した場合、年末の移行期間終了に向け、新たな合意なき離脱へのカウントダウンが始まる。

田中 理 第一生命経済研究所 首席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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