タクシー会社「600人解雇騒動」が混迷続く実情 ロイヤルリムジン、直前まで積極拡大の謎

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コロナ禍で、タクシー業界が苦しい状況にあることは間違いない。筆者は、ある大手タクシー会社の運転手(40代)に給与明細を見せてもらった。

東京都内に勤務する彼は隔日勤務(1回の勤務で休憩を挟んで20時間程度働く形態)で勤務日の上限にあたる13日間フルに働いて、手取り金額は8万円だった。平常時は1カ月当たり40万円程度だというので、単純計算で5分の1の収入になった。現在の惨状をこう嘆く。

「タクシーは地域の公共交通機関としての側面もあります。タクシーを出さずに休業手当を受けて休む方が収入はよくても、ドライバーはある程度は出勤しないといけません。

夜間帯の利用客は、医療関係者と霞が関の役人くらいのものです。0人の日もあるし、2人乗せられればいい方ですよ。本当は出勤したくないし、お客もいない中で出勤しても儲からないわけですが、誰かがその役割を担わないといけません」

タクシードライバーたちの生活は貧窮しており、毎月の家賃の支払いすら難しい状況に追い込まれた者もいるという。そんな背景から、従業員を解雇し、コロナ収束後に再起を図るという経営判断には一見して理があるようにも思える。

直前まで買収を実施していた

しかし、取材を進める中で、ロイヤルリムジンの“600人解雇”は見切り発車だったことは否めない。

冒頭の申し立てとは別に、70代ドライバーの男性は1人でロイヤルリムジンの金子健作社長ら役員2人に対し、220万円の損害賠償を求めて東京地裁に4月28日に提訴している。

この男性は代理人である馬奈木厳太郎弁護士を通して、5月初旬に筆者に以下の言葉を寄せた。

「これは会社と私個人だけの問題ではありません。このような事例を認めてしまえば、第2、第3のロイヤルリムジンが出てくる可能性もあります。さらに言えば業種問わず同じような状況が全国に広がっていく危険もある。

団体交渉で解雇を撤回したという報道も聞きましたが、それだけで済まされる問題ではない。従業員の収入や生活に対してどう考えているのでしょうか」

代理人の馬奈木厳太郎弁護士が言う。

「本来であれば、解雇のためには使用者は解雇の理由となる経営状況を説明する義務があります。ただ、ロイヤルリムジンの経営陣は具体的な数字をもって解雇者に明示することを放棄している。

また、(解雇回避努力義務の履行のために)代表や役員の報酬のカットなど、考えうる対策を講じたかも不透明です。具体的な経営実態がわからず、客観的な判断ができない状況です」

経営不振による従業員の解雇を整理解雇といい、その有効性の判断基準として「整理解雇の4要件」というものがある。使用者側の事情による人員削減には、①人員整理の必要性があること、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続きの妥当性が求められる。

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