新型コロナが引き起こす「MMTブーム」の第2波 パンデミック収束後の「新たな経済危機」とは

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なぜ、そう言えるのか。

パンデミックの最中には、大規模な財政支出が行われる。しかし、その結果として、パンデミックが終わった後、膨大な政府債務が残される。

そうなると、財政規律にとらわれている国は、巨額の政府債務に恐れをなし、極端な歳出削減や増税によって、財政健全化を図ろうとするであろう。その結果、経済は、再び、恐慌へと陥ってしまうのである。

実は、これには先例がある。

世界恐慌時、アメリカのルーズヴェルト政権は、1933年から、ニュー・ディール政策の下、公共投資を拡大し、1935年までに失業率を減少させた。ところが、ルーズヴェルト政権は、景気回復の道半ばにもかかわらず、政府債務の累積に恐れをなし、1936年から1938年にかけて、財政支出を削減してしまった。その結果、1937年から1938年にかけて、史上最も急速な景気後退を引き起こし、失業率は再び跳ね上がってしまった。

つまり、1930年代、アメリカの恐慌は、2度、あったのである。アメリカが最終的に恐慌を脱出しえたのは、周知のとおり、第2次世界大戦に参戦したことによる軍事需要によってであった。

コロナ危機収束後、恐慌を引き起こしてしまう可能性も

この失敗が、コロナ危機においても、繰り返される可能性があるのだ。IMF(国際通貨基金)が、コロナ危機収束後の財政出動の必要性を説いたのも、おそらく、この世界恐慌の教訓を踏まえてのことと思われる。

『MMTが日本を救う』(宝島社新書)。書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

だが、わが国では、健全財政論者からは、すでにコロナ危機収束後の増税を求める声があがっており、また政府も、依然、プライマリー・バランス黒字化目標という財政規律を撤回していない。なにせ、昨年、過去2度の消費増税の失敗にも懲りず、国内外の景気が後退している中で、消費増税を断行した国である。コロナ危機収束後、愚かな緊縮財政によって恐慌を引き起こしてしまう可能性は、決して低くはない。

しかし、もし本書が広く読まれ、緊縮財政の過ちが周知されれば、その危機を回避することはできる。そして、本書の処方箋が実行されれば、「失われた30年」からも決別できるだろう。

『MMTが日本を救う』が、日本を救うのだ。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。

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