【鎌田浩毅氏・講演】一生モノの勉強法(中編)

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 一つ、非常に悲しい思いをしたことがあります。1991年6月3日、雲仙普賢岳。覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、そこで43人の方が亡くなりました。たくさんの人が、火砕流の写真を撮ろうと身構えていました。テレビ局の方や新聞記者、それから何と火山学者も3人いたのです。思わぬ犠牲者が出た理由は、一つは火山学が未熟だったこと。そしてもう一つは、危険なことはわかっていても、それがきちんと伝わっていなかったこと。何となく地元の人が行っているから安全だろう、火山学者がいるから安全だろうと思って、皆が皆に寄りかかって亡くなってしまったのです。
 つまりここで大事なことは、火山の研究だけではなくて、それをどう伝えるか。そして「ここは入ってはいけません」といかに法制化をするか。また火山災害をきちんと理解してもらうために、どう教育するか。そんな火山学以外のたくさんのことを準備しないとダメなのです。もちろんそれにはお金がかかるから、予算の手当ても行政官も必要です。もう一回話を戻しますと、一生モノの勉強法として大事なのは、自分の専門の勉強だけでは不十分だという認識です。その周りの、もっと広いことを知っていなければ、独り善がりになってしまうわけです。これがまさに教養なのです。

 一般市民に火砕流や地震から身を守ってもらうためには、彼らの関心があることを話さなければいけません。その一つがファッション、そしてもう一つはおカネです。地震学の講義をしても簡単には伝わりませんから、たとえば「阪神・淡路大震災の復旧に11兆円もかかりました。東海地震と南海地震が来たら80兆円ですよ」などと言うと、伝わるのです。おカネに換算したわかりやすい説明もしなければいけない。このように人に説明するときは、たくさんの教養がいるのです。こうした説明を代替案と言います。オルタナティブ・ウェーですね。たくさんの代替案があればあるほど、人に伝わるわけです。そのコミュニケーションの技術を身に付けないと、自分の専門も生きません。私の火山学をちゃんと生かすためには、私自身がもっと間口を広げること、どんな人とも話せることを目指しているわけです。一生モノの勉強法は、武器と教養の二つからなります。武器は自分の本来の仕事です。たとえば、公認会計士は、やはり会計で勝負するわけですが、自分の分野は皆さんよくできていますね。しかし足りないのは幅を広くすること、教養のほうです。それは仕事が広がった先で、コミュニケーションと深く結びついているのです。

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