【鎌田浩毅氏・講演】一生モノの勉強法(中編)

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●もし人を変えようと思ったら、自分が変わるしかない

 コミュニケーションのキーポイントを一つ言います。それは、「相手の関心に関心を持つこと」です。こうして話をしている時にも、私が皆さんの関心に関心を持っていないと、私の話したいことが伝わらないのです。私は火砕流の中の流動機構にとても興味があります。でも「grain dispersive forceで、grainとgrainがぶつかって……」という話をしても、皆さん面白くないですよね。そうではなくて、「火砕流で死なないでください」という話は興味を持って聞いてもらえるわけです。そうやって、皆さんが関心を持つことに合わせないと、火砕流の話ですら伝わらないのです。このことを「相手の関心に関心を持つ」と言います。相手に関心を持つ、のではありません。繰り返しますが、相手の関心に関心を持つのです。そうやって何かアクションをすれば、必ず伝わります。これは、コミュニケーションの大基本です。

 実際に私はどうしているかというと、本日お配りした資料の中に白い紙が入っています。これは「魔法の白い紙」と言いまして、相手の関心を吸い上げるものです。大学でも毎回使っているのですが、質問、感想、意見など何でも書いていただければと思います。講演が終わった後に回収し、それに対して私は何でも答えます。
 大学で学生たちは、黒板の字が汚いとか早口だとか、それこそ数式を使うな、など本当にいろいろなことを言ってきます。でもそれが大事で、数式を使うなと言われたら、使わなくてもわかるように、つまり代替案を出して授業をするようにしています。この白い紙だけでコミュニケーションが十分に取れ、有益な内容だったという感想をもらうことができるのですね。

 なぜ、そういったことを発見したかというと、心理学を学んだからです。私は20世紀からの心理学を勉強しました。フロイト、アドラー、ユング、ロジャーズという4人の巨頭がいるのですが、中でもアドラーの心理学が役に立つと思い勉強してきました。アドラーは何を言ったかというと、いちばん大事なのは相手の関心に関心を持つということ。その次に、人は変わらないということ。変われるのは自分だけなのです。
 たとえば嫌な上司がいたとします。何かいいことを言っても認めてくれないし、それどころかガミガミと怒られる。そういうときに「上司が変われば、私はもっといい仕事をするのに」と普通は思います。しかし、変われるのは自分だけで、自分が変わったら上司も変わるかもしれない。これは夫婦でも同じです。「奥さんさえ変われば、自分は変わるのに」と思っている旦那さんはすごく多いです。しかしそれは成り立たないですね。
 成り立たない理由は、アドラーが20世紀初めに言ったことですが、人というのは絶対変わらない。自分が変わったときに、人は変わるかもしれないし、変わらないかもしれない、だけれども、もし人を変えようと思ったら自分が変わるしかないということです。これは心理学のいちばんの基本。それを大学の授業や、いろいろな人との付き合い、このような講演会でお話しするわけです。そういうことがわかると、これは一生使える技術だと思うはずです。ぜひ身に付けていただきたいと思います。
後編に続く、全3回)

[当講演は2009年9月7日に開催されました]
鎌田浩毅(かまた・ひろき)
1955年東京都生まれ。
1979年東京大学理学部地質学科を卒業。通産省地質調査所主任研究官などを経て、1997年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授に就任。
「科学の伝道師」として、専門書のみならずビジネス分野においてもベストセラーを多数上梓。『週刊東洋経済』誌上で「一生モノの古典」を毎週連載中。
鎌田浩毅ホームページ http://www.gaia.h.kyoto-u.ac.jp/~kamata/
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