幻の1台に見る「マセラティ」栄枯盛衰の裏側 デ・トマソが生んだチュバスコの数奇な運命

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チュバスコは全長4365mm×全幅2014mm×全高1124mmと低くワイドだ。独特な形状のリアホイールアーチを見るなら、これがマルチェロ・ガンディーニの手によるものであることは一目瞭然だ。

ガンディーニらしいウェッジシェイプのスタイリング(写真:マセラティ)

シャープなウェッジシェイプは、彼が同時期に手がけたブガッティ「EB110プロポーサル」やランボルギーニ「ディアブロ プロトタイプ」などを彷彿させるし、電動式デタッチャブルルーフを装着したグリーンハウスまわりは、ランチア「ストラトス」を思い起こさせる。ドアはカウンタックなどと同様、シザーススタイルだ。

プレス資料によれば、ノーズに備えられた3つのエアダクトからリアのディフューザーへと効率的にエアを流すことにより、良好な空力特性を獲得し、同時にエンジンコンパートメントの冷却を効率的に行うとある。果たして、どの程度の風洞テストを行ったのかは不明であるが、ガンディーニのハイパフォーマンスカー開発ノウハウが生かされていることは、間違いない。

エンジンは、シャマルと同じV8 3.2リッターツインターボを430bhp/6500rpmへとチューンしたもので、ポテンシャルは相当高いものだった。さらに単にパフォーマンスを追求するだけでなく、ラグジュアリースポーツとしての快適性の追求も謳われていた。

アレッサンドロの理想を形にしたシャーシ

シャーシとボディはダンパーを介して接合され、バイブレーションを低減させるという。これは、幻のロータス「フォーミュラ88」からのインスパイアではないかと当時、囁かれた。アレッサンドロが、コーリン・チャップマンに心酔していたことは有名であったのだ。

そう、まさにチュバスコに採用されたシャーシこそ、コーリン・チャップマンお得意のバックボーンフレームであった。

「チュバスコ」のメカニズム。バックボーンフレームであることがわかる(写真:マセラティ)

デ・トマソ・アウトモビリのプロダクションモデル第1号車である「ヴァレルンガ」、続く「マングスタ」においても、このバックボーンシャーシが採用された。しかし、続く「パンテーラ」においては、コストの面から通常のモノコックボディが採用されている。

アレッサンドロは「ハイパワーエンジンを冷却するための十分なエアフローを確保したうえでコンパクトかつ軽量なモデルに仕上げるためには、バックボーンフレームが最適であった」と語っている。

モデナのサプライヤーと共同開発した軽合金製のシャーシには、前:プッシュロッド、後:プルロッドのサスペンションが装着され、アレッサンドロはF1マシンさながらの理想的な設計であるとアピールした。

つまり、チュバスコはマセラティのヒストリーの中から生まれたモデルではなく、アレッサンドロの理想とするスポーツカー像から生まれたものであった。

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