「高品質・低価格」の経営はギリギリなので、利益率が低く、売上が少しでも減るとすぐに赤字に陥ります。また、今までの利益が少なかったので、当然蓄えも少ないはずです。金融機関もなかなか貸してくれないでしょう。高品質・低価格戦略を実践している企業は、常に平時を前提としていると言えます。
さらに言えば、そもそも高品質・低価格という戦略は、「有事への備え」というコストを有事のときまで先送りしているだけなのです。先送りしたコストは自分では払えず、将来の日本政府、そして国民に転嫁することになります。
「有事だから、すべての中小企業を助けるべきだ!」という声に応えて政府が支援をすることは、これまで不合理に安く提供されていた商品やサービスのコストを、政府が負担することになります。
冒頭でも書きましたが、高品質・低価格が「社会的善」であるというのは、平時の妄想です。平時に自慢していた「日本では非常に美味しいランチをワンコインで食べられる」という戯言の請求書は、有事のときに突き付けられるのです。
高齢化が進み、社会保障が充実している欧州先進国の物価がなぜあれほど高いのか、もっと真剣に考えるべきです。
「不健全な企業ほど助けてもらえる」というメッセージ
今回のコロナ危機で、高品質・低価格はモラルハザードにもつながりかねないことが明らかになりました。
コロナ危機が起きる前までは、主に大企業を中心に、内部留保金を貯め込んできた企業は悪者と見なされてきました。しかし、こういう企業は今回の危機でも、しばらくは支援を求めてこないでしょうし、支援もされないでしょう。有事のときには、健全経営をしてきた企業は倒産する可能性が低いので、支援の対象から外されることが多いのです。
不健全な状態で経営されている企業ほど、利益は少なく資本金も小さいので、有事の際には収入が途絶えて倒産する可能性が高くなります。そこで、「うちが倒産すると失業者が増えるぞ」と訴え、労働者をある意味で人質にして、政府に支援を求めます。
慢性的に赤字を垂れ流し続けてきた企業や、薄利多売で不健全な経営を続けてきた企業を、「弱者を助ける」といって支援し続けることは、政府が「不健全な経営をすればするほど得になる」というメッセージを発信することになります。このメッセ―ジは、逆に言えば「健全な経営をする企業は、平時には税金を払い、有事には支援の対象にならない」という、極めておかしなメッセージです。
どの先進国も多かれ少なかれその傾向はありますが、「中小企業支援」は実質的には「小規模事業者支援」になりがちです。日本の場合、従業員3~4人の企業が主な支援対象となります。そのため、有事のたびに中堅企業と大企業が負担を課されます。
しかし、中堅企業は日本の雇用の46.5%も占めていますので、本来なら中堅企業をこそ守るべきなのです。
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