次は、住む場所でもめたケースだ。
太田久美(仮名、38歳)は地方出身者だが、都内の大学を卒業後は、有名メーカーに就職し、ずっと都内で一人暮らしをしてきた。婚約者の吉川隆(仮名、42歳)は、都心部にある大手企業に勤めていたが、会社まで1時間半の距離の所に実家があり、年老いた母親と同居。父はすでに他界していた。
「お付き合いしていたときから同居が心配だったんです。でも、プロフィールには“結婚後の同居はナシ”となっていたし、それとなく聞いたときも、『母親は、お嫁さんと暮らすのは気疲れするから、自分は1人で暮らすと言ってるよ』って」
ところが、成婚退会し結婚の準備をあれこれと進めだしたところで、隆が、「実家を2世帯住宅に立て直して、そこを新居にしようと思うけど、どうかな」と言い出した。
「彼の実家から私が通勤するとなると、ドアトゥドアで、1時間半から2時間かかるんです。大学の頃から交通の便のいい都会に暮らしていて、しかもずっと気ままな一人暮らしをしてきた。わがままかもしれないけど、遠地に越して、2世帯とはいえ姑と同じ家に住むのは抵抗がありました」
「新居は都内にマンションを借りよう」と言っていたのに、なぜ急に2世帯の話になったのかを隆に聞いた。すると、彼が言った。
「僕の年齢なら、賃貸を借りるよりも、早めにローンを組んで自分の家を建ててしまったほうがいいと思うんだよね。2世帯でキッチンもトイレもお風呂も別にして、お互いの生活に干渉し合わなければ、別居と同じでしょう?」
“干渉し合わずに生活できるはずがない”と思いつつも、そのときはせっかく決まった結婚を白紙に戻す勇気が久美にはなかった。親にも相談したが、「結婚するんだから、何もかもが自分の思いどおりにはならないわよ。相手に合わせることも大事じゃないの?」と言われた。
仕事を辞めろと言う彼の母親
その後、隆が久美の実家へのあいさつを済ませ、その1週間後に隆の実家にあいさつに行った。旧家の娘でずっと専業主婦をしてきたという彼の母親が言った。
「結婚したら、お仕事はどうなさるの? 隆の給料があれば、久美さんが働かなくてもやっていけるわよね。今の時代だから、女の人も働きたい気持ちがあるだろうけど、子どもが生まれたら、子どもに愛情を注いで、家をしっかり女性が守っていく。そのほうが夫も子どもも幸せだし、家庭は円満になるわよ」
それを聞いて、久美は顔をこわばらせた。久美の様子に気づいた隆が、母親に言った。
「久美は、会社でも花形の部署にいるし、『仕事は続けたい』って言ってるから、それはそれで僕はいいと思っているよ」
すると、母親が言った。
「久美さんが会社を辞めても、久美さんの変わりはいくらでもいるわよね。でも、子どもを産んで母親になったら、母親の変わりはいないのよ」
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