ところが2月に入って、美和からLINEが来た。
「結婚がなくなりました。また婚活をしたいので、面談をお願いします」
驚いた私は、連絡が来たすぐの週末に、美和に会う約束を取り付けた。
事務所にやってきた美和の目にはすでに涙がたまっていた。ソファーに座ると、バッグからハンカチを取り出し、目頭を押さえた。「いったい何があったの?」と聞く私に、破局に至った経緯を涙声で語り出した。
「結婚することを決めてからというもの、太蔵さんや向こうのご両親の主導で話がどんどん進んでいったんです。それに対して、私が“こうしたい”と言っても、まったく聞いてくれなかった。そのうち、『どうして僕の言うことに反対ばかりするの』となって、1月の終わりに、『やっぱり結婚はできないから、この話は白紙にしよう』と、彼から言われたんです」
1番の大きな破局の原因は、3月に予定した結婚式だったようだ。
誰のための結婚なのか
「結婚式って、一生に1度のことじゃないですか。私は時間をかけて準備したかったんです。でも、彼は、『3月に挙げる』と言って聞かない。そんなに急だと、親戚や仲のいい友達に来てもらえないかもしれないから、『3月に挙げるなら内輪だけの小さなお式にしましょう』って言ったんですが、彼は、『会社の人たちを呼んで、盛大にやる』と。ならば、『私のほうは、親と来てもらえる人だけ呼ぶね』と言ったんです」
すると、次のデートのときに、「こんなサービスもあるよ」と、結婚式や葬儀に人材をレンタルしくれる会社の資料を手渡してきた。パソコンで検索したものをA4用紙に印刷してきたようだった。
美和は、カーッとなり、語気を荒らげて言い放った。
「誰の結婚式なの? まったく知らない人に参加してもらっても意味がないでしょう?」
そこで大げんかになったという。その数日後に、彼から、「結婚は白紙に戻そう」という連絡が入った。
「彼のご両親が、『両家で招待したお客さんの人数に差がありすぎるのはみっともない』と言い出したようなんです。彼は、お付き合いをしているときから『僕は両親を尊敬している』と言うのが口癖だったのですが、そもそもごあいさつに伺ったときの私の服装を、お義母様が気に入らなかったらしく、『あの娘は石野家の嫁にはふさわしくない』と言い出したようなんです」
シンプルなワンピースで伺ったようだが、「正式なあいさつのときに格式に欠ける」と、母親は言っていたそうだ。
世間体を気にする親に頭の上がらない息子。親が結婚にあれこれと口を出し、嫁となる女性にダメ出しを始めると、まとまる話もまとまらない。
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