ポカリスエット「中高生自撮りCM」制作の舞台裏 リモートワークで激変する広告制作の現場

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緊急事態宣言発令後の4月8日には、広告会社の業界団体である日本広告業協会や、広告制作会社でつくる日本アド・コンテンツ制作協会が、相次いで広告制作に関する指針を発表。撮影を伴うものは基本的に延期すべきと要請した。「業界全体としてメッセージを出したことで、広告主側にも理解してもらった。要請を受けて急きょ中止になった例も出た」(日本広告業協会の村井知哉専務理事)。

一方、広告会社に頼らず社内の人材がリモートでテレビCMを制作した例もある。人事労務のクラウドサービスを手掛けるベンチャー企業のSmartHR(スマートHR)だ。同社のサービスを導入した人材紹介・派遣大手のTSグループがリモートで入社式を開催するにあたり、入社手続きをオンラインで完結した事例を急きょCMにすることが決まった。

映像はすべてZoomで撮影

4月28日からテレビで放映が始まったが、広告としては異例なことに、完成したCMはすべてビデオ会議システム「Zoom」で撮影されている。CMの画面は4分割されており、右上にSmartHRの社員、あとの3人は東京にいるTSグループの人事担当者2人と、熊本県にいる同社の新入社員だ。

SmartHRはビデオ会議システム「Zoom」を使ってテレビCMを撮影した

「パソコンのカメラを使ったビデオ会議の画質ではテレビCMとして成り立たない可能性があった」(SmartHRマーケティンググループの荒木彰氏)ため、東京にいる3人はZoomの会議に一眼レフカメラを活用。新入社員だけパソコンのカメラを使用したという。

4月1日の入社式直後にSmartHRのマーケティング部隊がCMの企画として練り上げ、撮影までの打ち合わせはすべてリモート。実際の撮影もごく少数の参加にとどめた。

撮影後の編集は、SmartHRのマーケティング担当者3人と社外の動画クリエイター1人のみ。「企画の立ち上げは完全に内製で、映像の編集もクリエイターと毎日やり取りして進めた」(荒木氏)。マーケティング責任者の岡本剛典執行役員も「ほぼ社内で作り上げたCMは異例だ。音楽や映像の編集に強い人材がいるマーケティングの組織だったからこそできた」と振り返る。

3月初めにSmartHRが首都圏で展開した電車内や駅構内の広告も実はほぼ内製だった。もともとは人事労務の仕事を楽にして残業を減らせるという趣旨のメッセージだったが、新型コロナの影響で在宅勤務が増える中、締め切り直前になって「テレワークが始まった。ハンコを押すために出社した。」というコピーに変更。ツイッターなどで関心を集めた。

新型コロナという、かつてない制約の中で自社のマーケティング戦略をどう進めるか。多くの企業が悩み、試行錯誤する日々は続きそうだ。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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