坪内:しかも人間関係もよくなる。ですから、今なら海外に行けと言われても、言葉に関してはあまり心配しないと思います。 変に通訳をつけて、お互い理解したつもりになるより、苦労しながらでも直接相手の言うことを理解しようとしたほうが、信頼関係ができて、何とかなる。
海外駐在者の生活立ち上げを丸ごと事前に準備してくれる専門の部署を持つ企業もあると聞いています。日本語の通じる病院や医師や散髪屋さん、日本食材店や日本食レストランを事前に探し出しておいたり、時には自前で店を出したりするそうです。ところが当社にはそんな力がない。「行ってこい」と言われたら、まず自分でアパートを借りるところから始めなければなりません。
ごみの出し方もわかりません。だからトラブルも多いのです。しかしそれがゆえに鍛えられます。現地の生活がどうなっているのか、どうすれば生活を立ち上げられるのかを、経験として学ぶことができるのです。だから、当社は組織としては弱いけれど、一匹狼としてなら、かなり強いのではないかという気がします。
それでも現地の人の貪欲さには、日本人はちょっと勝てないところがありますね。ロシアのモスクワで展示会に行ったとき、びっくりしたことがあります。日本の展示会は、基本的に無料で入れるでしょう。向こうは違います。
三宅:ヨーロッパの展示会は有料なのですか。
坪内:正確な金額は覚えていませんが、どの展示会も入場料はけっこう高かったと思います。現地の人の給料1日分ぐらいでした。ですから入場料を払って入ってくる人は、ものすごく貪欲です。ドイツのISHという展示会もやっぱり入場料が高いのですが、そこには西欧からだけでなく、中東欧、トルコ、ロシアやCISのような新興国からも、未来の実業家がやって来ます。巨大な展示会場のすべてを見て回り、カタログや情報を集め、話を聞いて、どんなメーカーがあるのか、どのメーカーがこれから世界で伸びていくのか、自分はどのメーカーの製品を取り扱えば成功するのか、そういうことを真剣に吟味して、「自分を代理店にしてくれ」と売り込んでくるわけですよ。とにかく入場料の元を取るべく、ビジネスにつなげていこうとする。
日本では自動車のモーターショーを見ていても、商談の場というイメージは強くないでしょう。ところが新興国の人は、自分がどのメーカーと組むかを決めるために来ます。ですから「自分の会社はわが国でいちばんの技術力のある会社です。販売力のある会社です」とアピールしてきます。「従業員は何人?」と聞くと、「何十人です」と言います。でも調べてみると、5~6人しかいません。それでも全然悪びれずに、「とにかくうちと販売契約を結んだら大成功しますよ」と売り込んできます。
三宅:そういう中で、付き合う相手をどうやって見極めていくのでしょう。たとえばうそをついている相手と付き合うのは難しいですよね。
坪内:ハッタリだとしても、意欲があるという点ではいいことです。販売店契約を結んでも、うまくいかないケースがほとんどです。彼らは必ず「独占契約を結びたい」と言いますが、独占権さえ与えなければいいのです。いろいろ調べて、ああ、ここがいいなと思ったら、期限を決めてやってみる。失敗したらまた別のところと組めばいいと思っています。
いちばんびっくりしたのは、モスクワだったかベルリンだったか、よく覚えていないのですが、展示会場の入り口に小さい子供がいて、「おじちゃん、チケットない?」と聞いてきたのです。日本人はだいたいチケットを余分に持っているんですよね。それをその子にあげると、ちょっと離れたところで、もうそのチケットを売っている(笑)。
三宅:キッズダフ屋ですか!
坪内:それだけじゃないのです。もっとすごい子は、その入場券で中に入って、すべてのメーカーのカタログとかCDとか、ボールペンなどの粗品を全部タダでもらってきては、それを何セットも作り、展示会場の入り口で売っているのですよ (笑)。
三宅:将来、たくましい商売人になりそうですね。日本とはまったく違う環境だということがよくわかります。
(構成:長山清子、撮影:梅谷秀司)
※ 後編は4月16日(水)に掲載します
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