ダイキンの”欧州躍進”のタネを蒔いた男

ダイキン工業 執行役員 空調営業本部長 坪内俊貴(上)

三宅:なるほど。ライバルの攻勢で多少は影響を受けたものの、基本的には慌てず、品質力と供給力を高めることにより、乗り切ったのですね。

坪内:そうですね。製品の品質だけでなく、据え付け工事やアフターサービスを含めてのトータル品質に支えられたダイキンのブランドは、市場に受け入れられていましたので、そのようなことができたのだと思います。ただいちばん心配したのは、EU圏の成立と、それに伴うユーロの導入ですね。ユーロが導入されるまでは、それぞれの国の通貨でエアコンの価格を表示していました。もちろん換算レートで計算すればどの国が高いか安いかはわかりますが、いちいち計算なんかしませんでした。でもユーロになれば、どの国もユーロで価格をつけます。そうするとイタリアとフランスの国境あたりでは、「なんでイタリアのほうが安いんだ。あっちに買いに行こう」ということになります。まだまだ本格化していませんが、こんなふうにして価格の収斂というか、地域における価格の均等化が少しずつ始まるでしょう。価格が収斂するときは、必ず安いほうに収斂しますから、それが心配ですね。

当時、日本の無印良品の海外ブランドであるMUJIがロンドンに進出するというので、お話を聞きに行ったことがあります。当時のMUJIは通信販売などが中心でしたが、すでに欧州統一価格でしたね。「国によって所得の差もあるけれど、もうEUになっているし、ユーロが通貨なので、どこも同じ値段で行きます」と言われました。だからひょっとしたらエアコンも、そうなる時代が来るかもしれません。

言葉ができないほうが信頼関係は築きやすい

三宅:それ以外にもいろいろなご苦労があったと思いますが。

坪内:私は、それほどの苦労をしたとは思っていないのです。私は言葉が全然できないまま、ポンとウィーンに行きましたので、言葉はわからない、商習慣もわからないという状態でしたが、それでも楽しかったですよ。

私が赴任したセントラルヨーロッパ社はウィーンの会社ですが、ハンガリー、チェコ、ルーマニアも担当していました。ウィーンはドイツ語ですし、ハンガリーはハンガリー語、チェコはチェコ語、ルーマニアはルーマニア語です。私が話せるのは日本語と片言の英語だけです。ハンガリーの人はドイツ語は話すが、英語はわからない。だから、ハンガリーの子会社の営業マンや販売店の社長との打ち合わせでは、私の片言の英語をドイツ語に訳し、さらにハンガリー語に訳す、または私の日本語を英語に訳し、それをドイツ語に訳すというように、2人の通訳がいるのです。

三宅:そんなことをしていると、まるで伝言ゲームのように、微妙にニュアンスがずれていきますね。

坪内:そうです。しかし話を進めているうちに、お互いが、「どうも自分の話がずれて伝わっているのではないか」と思い始めるのです。これはなぜか不思議とわかるのですよ。

そこでお互いに片言の英語はできるので、当時ヨーロッパでやっと出始めた電子白板に、英語だの、うろ覚えのドイツ語だのを書きながら、少しずつ打ち合わせや商談を進めていきました。ものすごく時間がかかりますが。

三宅:むしろそのほうが間違いがないというわけですね。

坪内:間違いなく伝わるし、2人で一生懸命議論をするので熱意も伝わるし、やり取りが文字としてきちんと残る。英語が全然わからないという人はほとんどいないし、わからない単語があっても辞書ですぐ調べることができる。彼らは僕の電子辞書を見て、「それええなあ、なんでそんなすばらしいものがあるんや」とうらやましそうにしているのです。電子辞書は当時1万円とか2万円くらいしましたが、「通訳を雇うよりは安いからあげるわ」とプレゼントしたら喜んでくれました。通訳を雇ったら1時間で2万円ですからね。

三宅:それはいい話ですねぇ。

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