格安スマホが学生の「通信費軽減」に苦慮する訳 支援の動き広がるも、競争格差が生じる懸念

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だが、自前の通信網を持たない格安スマホではこうはいかない。データ通信サービスを利用者に提供するにあたり、それぞれ回線を借り受けている携帯電話大手3社に接続料を支払っているからだ。この接続料は使った分の通信データ量に連動する。

格安スマホ会社が追加利用料金の無償化などをすることは、そのデータ通信分の仕入れコストは発生しながらも利用者からの対価を取らないことを意味する。携帯大手3社と格安スマホ間の無償化支援のデータ量の差が出ているのもそのためだ。

大手携帯3社は支援策として決めたデータの上限根拠を「オンライン授業1コマ(90分)で約0.5ギガバイトのデータ量が必要と推定し、週15コマとして月間30ギガバイト、その他の随意科目やゼミ活動分等を考慮して50ギガバイトに設定した」(ドコモ広報)などと説明する。

これに対し、格安スマホ側にはそこまでの余裕がない。例えば月間10ギガバイトまで追加料金を無償化するオプテージは「こういう状況なので、できる限りの支援はしたいが、コスト面も考慮したうえで、できる範囲で積み上げた数字として決めた」(広報)としている。

有識者会議でも格安スマホが議題に

目下、学生にとってギガバイトの確保が重要な問題になっている中で、携帯大手3社と格安スマホ各社の支援レベルの差やその支援に伴う負担の差は、顧客獲得競争に影響を与えかねない。格安スマホ各社が自腹を切った支援策として25歳以下に提供するデータ通信の接続料は、競合相手の携帯大手各社の収入にもなる。

コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

4月21日に開かれた総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」でも委員からは、「テレワークやオンライン授業などで、(利用者が)かなりのデータ通信量が必要になるというケースが出てきている。MVNO(格安スマホ)が柔軟に対応できるような接続料体系を検討してもいいかもしれない」という指摘も出た。

これまで、「適度なデータ通信量をほどほどの品質で使える」というコストパフォーマンスのよさを売りにしてきた格安スマホだが、コロナは少なくない数の利用者のニーズ自体を変えてしまっている。オンライン授業やテレワークで必要なデータ通信量が一気に増えている既存顧客をつなぎとめるため、対応に苦慮する局面が続きそうだ。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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