キューバ人が資本主義に抱いた「何かが違う感」 モノがないキューバが最高なわけではないが

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「今のキューバは食べ物や、トイレットペーパーなどの日用品も不足しています。国内では自営業への規制が緩和され、自由経済へ少しずつ動いているけれど、その波に乗って成功している人は少ない。それにお金があったとしても、今日は店に卵がない、明日はせっけんがないという状態で、貯めたお金の使い道もありません」

少ない物資は闇市場に流通し、外貨収入のないキューバ人には、手が届かない高値で販売されている。経済の悪化は、高水準で有名な教育現場にも影響を及ぼした。よりよい生活を求めて、外貨のチップがもらえる観光業に人材が流出しているのだ。大学教授から転身してタクシー運転手になるなど、教師不足は以前から問題になっている。

ハバナの語学学校でフランス語を勉強する学生たち。このクラスにも、海外派遣を目指す医学生がいた(筆者撮影)

一方、リーさんによると、高給でないにもかかわらず医師を希望する若者は多いという。「若い人は将来を考えているから。キューバが今後もっと資本主義に振れたら、医師の給与は上がるかもしれない。それに優秀な医者になれば、海外派遣のチャンスがある。

だから、いいお医者さんはどんどん海外に行ってしまうんです。設備が古くて医薬品も不足しているこの国で、病気になることが僕は怖い」。

このままの流れで資本主義になるのはダメ

リーさんは再びチリに行くことを考えている。チリ政府が、条件を満たしたキューバ人のビザなし入国を許可したため、以前と違い友人や親せきがチリに多く住むようになった。制裁を恐れキューバと距離を置く国がある一方で、中南米諸国ではアメリカに依存しない関係を結ぶ動きも進んでいる。

「外国で働いてお金を貯めて、もっと語学を勉強したい。キューバの経済がよくなったら、帰ってきて通訳の会社を作ることも考えています」。そう将来を語るリーさんに、この先キューバはどうなると思うか聞いた。

「正直わかりません。問題は、このままの流れで資本主義になったら、必ずアメリカが介入して、アメリカの資本主義のコピーになる。それはダメです。見習うなら、社会保障が手厚い北欧のシステムのほうがいいと思います。僕はキューバが好きだから、経済がよくなったら帰ってきたいです」

アメリカがキューバに経済制裁を科している理由は、「キューバの民主化を進めるため」だ。オバマ大統領は50年にわたる制裁を経ても「キューバの民主化に効果がなかった」として、国交を回復し規制を緩めた。しかし、トランプ大統領は「規制緩和は民主化を進めなかった」と、わずか2年で制裁を強めている。その背景には、キューバが緊密な関係を持つ中国・ロシアの影がある。

経済制裁を終わらせるために「アメリカ式の民主化」を受け入れたら、キューバは革命後に積み重ねたものを再び明け渡すことになるだろう。世界情勢の変化という波の中で、一進一退をくり返すキューバ。その船に乗らざるをえない国民は、今も翻弄され続けている。

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