「日本の部活動」が国際組織に本格調査される訳 「虐待リスク」は依然として改善していない

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この「過去に誤った指導をしたのに、選手に謝罪をしない」という事実にハッとさせられる人は少なくないだろう。

「選手に体罰をした過去があっても、他の人もやっていたとか、そういう時代だったと言い訳をしていないでしょうか。一度は謝るべきです」

もうひとつは、深刻な体罰を繰り返す指導者がいまだに指導し続けている事実だという。

「競技団体も、政府のしかるべき機関も、そのことを認識しながら動けていないことに、とてもショックを受けました」

ウォーデンさんは「メガスポーツイベント人権プラットフォーム(Mega-Sporting Events Platform for Human Rights)」の第 4 タスクフォース共同議長を務めるなど、IOCをはじめとするグローバルなスポーツ機構と頻繁に連絡をとりあい、世界各地のアスリートの人権問題に長年取り組んできた。LGBTの子どものいじめ問題(2016年)など、日本で過去3回にわたって調査報告をした実績がある。

アメリカでは問題解決が進んだが…

アメリカでも、いくつもの問題を解決してきた実績を持つ。米オリピック委員会は「セイフ・スポーツ(SafeSport)」という体罰や性的虐待、差別等を防止するためのプログラムを2012年にすでに構築している。告発者の保護、「セイフ・スポーツ」への報告義務、法機関への通報などが定められ、スポーツハラスメントの防止策の環境が整備されていると思われていた。

ところが、2016年に米国体操協会のナショナルチームの医師が、368人もの選手に性的虐待をしていたことが発覚。同協会が通報を受けたにかかわらず、いくつかのケースを長年にわたって放置していたことも明るみになった。

ウォーデンさんはこの問題にコミットし、その後同プログラムをより良いものに改善した。

「米国体操協会はその後、虐待や性犯罪に詳しい検察官を職員に迎え、理事も総辞職しました。一方の日本はどうでしょうか。2013年に日本スポーツ協会、JOC、すべての競技団体が暴力根絶宣言をし、ガイドラインを策定しました。が、私たちの調査では今のところ、これらの対策はスポーツ現場での虐待リスクを抑えられていないことが示されています」(ウォーデンさん)。

HRWは今回のように、五輪やサッカーW杯など、ビッグイベントのたびに世界のスポーツ界へ問題提起を続けている。イランで2019年に行われたサッカー・ワールドカップ(W杯)予選の対カンボジア戦で、40年ぶりに女性の入場が正式に認められた。このこともHRWが18年W杯の際にFIFA(国際サッカー連盟)に加盟国のサッカーシーンにおける人権侵害のひとつとして、イラン女性の観戦禁止解除にコミットすることを求めた結果である。

「世界最大のスポーツイベントのひとつであるオリパラに注目する世界の人々に訴えたい。スポーツの大衆性によって、一部とはいえ確かに存在する子どもへの暴力を、この機会に終わらせたい」

彼らの調査・提言は、日本のスポーツ界へどのような効果をもたらすだろうか。

スポーツ環境におけるパワハラやセクハラを研究し、情報提供など協力した明治大学政治経済学部教授の高峰修さんは「近年スポーツ界のハラスメント問題が多発しているが、未だ根本的な改善策を打ち出せずにいる」との印象を持っている。

高峰さんによると、国内の議論はどうしてもこれまでの慣習に回帰しがちだという。「勝つためには多少はしょうがない」「勝てなくなったらどうする」「それがいやならスポーツをやらなければよい」という方向に進んでしまう。

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