状況に応じて求められるリーダー像は違う コロムビアミュージックエンタテインメント取締役名誉相談役・廣瀬禎彦氏③

✎ 1〜 ✎ 70 ✎ 71 ✎ 72 ✎ 最新
拡大
縮小
ひろせ・さだひこ 1943年生まれ。69年日本IBM入社。広報・宣伝部長等歴任。96年アスキー専務、98年セガ副社長。99年アットネットホームを設立し社長に。2004年コロムビアミュージックエンタテインメントCEO就任、09年5月退任し、取締役名誉相談役に。

リーダーがやるべきことは方向を設定することです。しかし、これが普遍的かというと必ずしもそうではない。状況に応じて求められるリーダー像は違うのです。

 「経営者はビジョンを語れ」と言われることが多い。ところが赤字が出ていて、あと1年しかもたないというときにビジョンを語っていても仕方ない。「こういうときこそビジョンを」という社員もいますが、そんなものではない。赤字のときは緊急手当てをするしかないのです。

そのときのリーダーに必要なのは優先順位を明確にすること。たくさんの仕事の中から、今やるべきはこれとこれで、その優先順位はこうだ、と決めるのがリーダーです。それも細部まで詰めないといけない。

状況に応じて求められるリーダー像は違う

音楽業界でいえば、CDの作品ごとにコストと売り上げを見る。採算がとれていればパス。とれていなければ採算性の順に並べ、悪いほうから消していく。これが私のスキルです。ものすごく単純化する。ほとんどの人がこうはできない。憐憫の情が移ったり、これまでの経緯を思い、これは残したほうがいいと考えたりする。しかし、そういうことは経営が安定してからやればいい。

物事はできるだけシンプルにする。1個1個分解して、悪いところを外していく。そうしたら今度は、残ったよい部分を組み合わせて、新しいものを作ればよいのです。

細部を詰めることの大切さは、CSKの創業者、大川功さんから学んだ点が多かった。私がCSK傘下のセガ副社長だったとき、「望遠鏡ばかり持って歩いていてはダメだぞ。ちゃんと顕微鏡も持って歩け」ということをよく言われました。足元をしっかり見ながら遠くも見ろ、と。

実際、大川さんは、100万円の案件でも10億円の案件でも、同じように真剣に議論していました。あるゲーム機のコストで100万円余計にかかるので承認してほしいということがあった。それを大川さんは、どうしてだとしつこく聞いた。ただしていくと、最初から考えておくべき点を抜かしていたことがわかった。大川さんは、そういうことがすぐにピンとくる人だった。やるべきことをやっていないことに対しては、非常に敏感でした。

これはとても大事なことです。額が小さいからといって見逃すと、その後も似たようなことが繰り返されて、大きな額になってしまうかもしれません。見つけたときに指摘し、その後の芽を摘まないと。細かなディテールを一つひとつしっかり見る、これが経営者の要諦なのです。ーダーがやるべきことは方向を設定することです。しかし、これが普遍的かというと必ずしもそうではない。状況に応じて求められるリーダー像は違うのです。

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
ヤマト、EC宅配増でも連続減益の悩ましい事情
ヤマト、EC宅配増でも連続減益の悩ましい事情
倒産急増か「外食ゾンビ企業」がついに迎える危機
倒産急増か「外食ゾンビ企業」がついに迎える危機
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT