JDIが生煮えのまま片付ける「不正会計疑惑」 第三者委員会の報告書は終始あいまいな表現

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②現経営陣の関与は本当にないのか

不適切会計の中には、直近まで行われていたものもある。しかし、調査報告書では「現経営陣の関与を示すものは検出されていない」と3回も強調している。

だが、本当に現経営陣は知らなかったのか。

「2016年6月から常勤監査役の地位にあるO氏は、JDI の発足以来、経理財務以外の管理部門(人事・システム・環境管理等)を統括する執行役員を務めていた。O氏は、常勤監査役就任前から、在庫の管理等に強い疑念を抱いていた。また、国内の製造拠点においても、費用の先送りとも受け取られかねない指示が出ていることを聞き、〈中略〉懸念を持っていた。そのため、O 氏から事業部門の幹部に対し、現場への指示が 不適切会計を誘発しないよう、注意を促したこともあった」(128ページ)。O氏とは、保田隆雄常勤監査役(現任)である。

そして2018 年5月には、当時財務統括部財務部に所属していた元従業員が、 CEO・D氏(東入來信博氏)に直接メールを送り、不適切会計処理の存在等に関する通報を行っている。同月末には、仕掛品の評価替え部分が約 82 億円存在することを示す電子ファイルを発見した、と東入來氏にメールで報告してもいる(130ページ)。

公益通報を「人事案件」と判断

東入來氏やCFOの大島氏、各常勤監査役、この通報の内容を見た経営陣・幹部は、「当該元従業員自身の人事上の不満を主張するものと考え、A氏が不適切会計処理に関与しているとは思わなかったため、当該元従業員通報は基本的には人事案件であると判断した」(130~131ページ)。

元従業員の通報があったとき、菊岡稔社長は財務統括部長、当該従業員の直属の上司だ。この通報内容を見た幹部に含まれていないのだろうか。4月13日の記者会見(ウェブ会見)で、不適切会計や2018年の内部通報に対する責任を問われた菊岡社長は、「経理と財務ではリポートラインが異なっていた」と答えた。

東入來氏は、外部の弁護士にこの件の調査を依頼したが、「調査に必要な基礎資料が経理部門から提出されず、またA氏のインタビューが十分に行えなかったため、外部弁護士の調査は思うように進まなかった。その後、同年〈2018年〉11月にA氏の横領嫌疑が発覚したため、直ちに横領事案に関する社内調査委員会が発足し、社内のリソースはその真相究明に費やされた。この社内調査では、A氏による不適切会計処理の嫌疑は一切調査対象とはならなかった。他方、外部弁護士は、会社から必要な調査協力が得られず、遅くとも2019年1月までに調査を断念した」(131ページ

そして、「最終的には、当該元従業員通報は、2019年4月、当時のCFO・L氏〈大島氏〉が、合計2頁の簡素な調査報告書を提出することで、調査完了として処理された。〈中略〉具体的な調査方法の記載はなく、調査結果としては、当該元従業員通報の内容は会計上一切問題なしとのことであった」(131ページ)。

これについて調査報告書では、「当該元従業員通報に関する JDI の対応は、会社の内部統制として必ずしも適切ではなかったと考えられる」(131ページ)と片付ける。しかし、調査で判明した事実と付き合わせれば、通報をきちんと調査しなかったのは、組織として隠蔽したかったからではないか、と疑うのが第三者委員会の役割だろう。

次ページ3つ目は上場前の疑問
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