JDIが生煮えのまま片付ける「不正会計疑惑」 第三者委員会の報告書は終始あいまいな表現

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第三者委員会ではJDIの45名の役職員のPCやメールのデータ、10万件以上を対象にデジタル・フォレンジック調査(データを復元して行う調査)を行っている。そのため調査報告書では、メールについて「こうしたメールがあった」「検出された」という書き方がされている。本間氏もフォレンジック対象だったにもかかわらず、不思議なことにここでは「証言」となっている。本間氏の叱責を裏付けるメールは見つかっているのだろうか。

また、常務執行役員まで務めたN氏が指示した不適切会計の案件や、そもそもA氏の関与が確認されていない案件も複数ある。A氏だけの問題ではないのだ。

A氏の「男気」が歪んだ正義感を生んだ?

でありながら、不適切会計の原因は、「会計経理実務に関する知識・経験・スキルは社内でも随一」(122ページ)なA氏が、「業績不振にあえぐ会社を何とかしたい、上長であるCFOを守らなければなら ないという「男気」、〈中略〉歪んだ正義感を抱き、不適切会計処理が正当化されたものと考えられる。」(124ページ)と結論づけている。

経営陣に対しては、営業利益至上主義や内部統制の不備やA氏に対するプレッシャーを与えたことなど、あくまで間接的な責任を問うのみにとどまっている。

不適切会計に対しては、「A氏の上位者は、いずれも経理実務・制度会計実務に精通しておらず、A氏にしか分からない経理実務・制度会計実務について、口を挟むことができず」(123ページ)、「当時のCFOが正しい会計処理について十分な知見を持たず、十分な判断が行えないまま、A 氏の誤った判断・解釈による提案に基づき、不適切な会計処理の指示又は黙認をしてきた」(133ページ)とする。

つまり知識が不十分だったため、専門知識を持つA氏の話を鵜呑みにしてきたというわけだ。最高財務責任者であるCFOが不適切会計の指示をしたかもしれないが、それは正しい会計処理の知見を持っていなかったための”過失”であると言いたいようだ。

そして報告書はこう言い切っている。

「当委員会が認定した不適切会計処理のうち、A氏が関与したほとんどのケースでは、上位者からA氏に対する具体的な不適切会計処理の指示の存在を認めることはできず、上位者への忖度その他の理由から、A氏自らが主導したものであった」(123ページ)。

ここで「A氏が関与した全てのケースで上位者からの指示を認めることはできない」と書いてあれば事実と異なるが、「ほとんどのケースで具体的な指示は認められない」と書くところが巧妙だ。なぜなら、外から「経営陣からの指示があったと認定されているではないか」との指摘を受けた場合、会社側は「指示があったとしても具体的ではなかった」と反論できるからだ。

第三者委員会は、「男気」のあるA氏が歪んだ正義感を抱き、上位者への「忖度」などから不適切な会計処理を主導したと記している。

だが、「上位者からA氏に対する具体的な不適切会計処理の指示の存在を認めることはできず」という一文は、第三者委員会が会社を守るという「男気」から「忖度」しているように感じられる。

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