JDIが生煮えのまま片付ける「不正会計疑惑」 第三者委員会の報告書は終始あいまいな表現

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調査報告書は扉を含めて140ページに6ページの別紙の労作で、2012年4月のJDIの事業開始から2019年9月までの期間を対象に、JDIの役員と従業員(現役と退職者)など合計98名へのインタビュー、45名の役職員についてはメールの復元調査を実施。不適切な行為を詳細に調べ上げている。

だが、企業の第三者調査に詳しいある弁護士は、「第三者委員会による調査の社会的価値を下げてしまうような内容だ」と切り捨てる。というのも、細かい事実の説明に雄弁な調査報告書が、肝心な部分については曖昧な結論しか書かれていないからだ。

①不適切会計の責任はA氏だけなのか

調査報告書が曖昧にしている点は、大きく分けて5つある。第1は、不適切会計の責任を亡くなったA氏1人に背負わせて、経営陣の責任を明確にしていない点だ。

A氏の告発は、「経営陣の指示で不適切会計を行った」というものだ。調査報告書では、不適切会計については詳細を明らかにしている。だが、もう1つの焦点である経営陣の責任について明確に記していない。正確に言えば、経営陣の指示・了承があった案件をいくつも認定しておきながら、不適切会計自体に対する経営陣の責任に切り込んでいないのだ。

複数の不適切会計の案件で提案・指示・承認などを指摘されているのが2012年3月~2015年6月末まで最高財務責任者(CFO)を務めたJ氏。A氏とは「前職においても上司・部下の関係であり、個人的にも親密」(報告書124ページ。以下もPCで該当ページが閲覧可)とされる西康宏氏だ。

例えば、報告書にはこんなくだりがある(〈〉内は筆者注)。

「2012年12月、J氏より、A氏らに対して、2013年3月期(通期)〈中略〉を黒字化するために何かできることはないかと相談を持ち掛けられ、〈中略〉損失計上されている費用の資産勘定への振替、営業外利益に計上されているものの営業利益への振替等の施策の検討依頼がなされた。 これに対し、A 氏からは、〈中略、複数の不適切な会計処理が記載〉の提案がなされた。これらの提案は、J氏から B氏〈大塚周一社長・CEO〉に伝えられ、B氏からも前向きに進めるよう伝えられるとともに、提案したA氏らに対し賛辞が伝えられた」(79ページ)とある。

不適切会計の始まりはCFOの指示

結局、2013年3月期の第3四半期と第4四半期に不適切な会計処理が行われたとある。ただし、調査報告書では「不適切」ではあるが、「意図的に行われてものであるかは不明なため、誤謬に該当すると認定」(81ページ)している。

JDIが東証1部に上場を果たしたのは2014年3月のこと。2013年3月期といえば、JDIとしての実質初年度であり、上場に向けて提出する本決算である。その黒字化のために費用を振り替える検討をCFOが行い、CEOにも伝えられていたとある。これは調査報告書が指摘するもっとも古い不適切な案件だ。つまり、はじめの一歩はA氏ではなく、J氏(西CFO)の指示である。そしてこの後もJ氏からA 氏への提案・指示・承認などがあったことが記されている。

J氏だけではない。「2016年3月頃、K氏からA氏らに対して当該〈IT関連の〉業務委託費用の資産化の検討が依頼された」(81ページ)とある。K氏とはJ氏の後任CFO(2015年7月~2017年6月末)だった吉田惠一氏のことだ。この案件も不適切会計と認定されているが、K氏の行為が「不適切」かどうか調査報告書は記していない。

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