浮かせる話ばかりしてきたが、浮かせたものが流されてしまっては困る。そこで風車の流出防止に、姫路の鎖に白羽の矢が立った。姫路と言えば、全国の鎖の生産高の7割を占める一大鎖都市全国の鎖の生産高の7割を占める一大鎖都市なのだという。いやあ知らなかった。その火造鍛造技術は、江戸時代の姫路城拡張に使われた「松原釘」にも生かされたほどだから、歴史が長い。
その姫路の鎖(濱中製鎖製)6本とイカリの重みで風車は固定されている。イカリというといかにもあの尖った部分が海に刺さっているように思えるが、肝心なのは重さと長さなのである。重さは肝臓で、長さが心臓だ。
船のイカリというのは、鎖を引きずることで機能しているのだという。鎖を構成する輪は、長さが40センチで重さが200キロもある。白鵬関よりずっと重い。使われている鎖は1本830メートルだから、830割る0.4に200を掛けて約400トンもある。6本だと2400トンだ。
ケーブル敷設・係留に約半年をかけた
技術の話はまだ済んでいない。たとえばライザー電力ケーブルだ。風車とステーションの間を結ぶ海底ケーブルは、風車と変電所が揺れればそれにフレキシブルに付随して動けなくては切れてしまう。そこで、古河電工が開発した遮水構造のライザー電力ケーブルに中間ブイをつけて、海草のように海中に浮遊させたのだ。底曳網漁の邪魔にならないよう、深さなどには配慮されている。
間もなく見えてくるはずの風車もサブステーションも、組み上がった後に、浮体ごと福島沖まで海路で運ばれた。風車は三井造船市原造船所から、長さ1キロにもなる船団で3日がかりで、ステーションも横須賀からやはり3日かけて曳航されたという。その後約半年をかけてケーブル敷設・係留までが終了した。
これだけ時間がかかっているのだ。片道2時間の船旅を長いとか退屈とか言っていられない。リュックからおにぎり3つとお稲荷さんとゆで卵と缶入りのコーンスープとペットボトルのウーロン茶を取り出して、クルージング・ランチを楽しむ。隣の同行者たち青い顔で真剣に虚空の何かを見つめていて食事をしようとしない。最近流行のダイエット法だろうか。
小名浜港を出て1時間40分ほどするとようやく、風車とステーションが見えてきた。船の揺れが大きくなり、前面と側面の窓ガラスに波飛沫がぶつかる。気分はカムチャッカ沖の漁師である。
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