専業主婦は、とっても危険な選択肢 3組に1組が離婚する時代をどう生きるか?

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仮に夫側が月5万円の養育費を送金する取り決めをしていたとしましょう。ところが何年かして夫にも新しい家族ができて、送金が途絶えました。約束違反だとして、2年分たまった養育費をもらうために訴訟を起こして、弁護士さんにお願いし、100万円ほど勝ち取りました。

でもそれ以降、また養育費が振り込まれず、2年後に「また訴訟?」なんてことが起きるのです。ですので、最低限、養育費については、子どもの福利という観点から、離婚時に公正証書の形で取り決めをするべきだと考えます。不履行が起きると、裁判なしに強制執行がかけられますから。

「有責主義」は、むしろ女性を縛っている?

日本の離婚訴訟というのは、基本的には「有責主義」といって、有責配偶者(=離婚の原因を作った側)からの離婚請求を認めないことになっています。

これには「夫が浮気して、よそに女を作って離婚する」などというのは、妻の立場を考えると「踏んだり蹴ったり」だという有名な判例があります(最高裁、1952年)。妻の座を守るべきだというのですが、裁判離婚の約7割が妻側からの申し立てとなると、逆に有責主義は妻の座から逃れたい女性を縛ることになっている可能性があります。

そこで1987年に判例が少し改められ、実務上は数年の別居で、夫婦関係が破綻していると見なして離婚を認める「破綻主義」の立場を、一部導入するようになりました。

母子家庭の貧困と子どもの福利を考えれば、安易な離婚を認めるべきではないのですが、一方で、別れたい側に数年も婚姻関係の維持を強いるというのは、少し酷かもしれません。むしろ養育費の送金を確実に行わせることとセットにして、離婚を認めるほうが、現実的な場合もあるでしょう。

もちろん、離婚を勧めるつもりはありません。ただ、離婚の自由がある社会というのは、離婚すらできない社会よりは「ましな」社会であるはずです。恋愛結婚という形で入り口を自由化した社会では、当然、結婚後にもステキな異性と出会う機会があり、出口の離婚を防ぐことは、基本的にできません。結婚したら、決して異性に会えないようにするといったことでもしないかぎり。

あ、ちなみに、「養育費はいらないから別れて!」というのは、反則ですよ! 養育費はあなたの権利ではなく、あなたの子どもが持つ権利で、あなたが代わりに放棄することはできません

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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