「新型コロナ対策一律10万円」にうんざりな理由 なぜ国民は「意味不明な政策」を絶賛するのか

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さて、競馬である。週末は3歳牡馬を中心とするクラシック初戦、G1皐月賞が行われる(19日、中山競馬場11R、距離2000メートル)。私は10万円もらったら、馬券ではなく、コロナと戦っている友人の医師にご馳走したいと思っている(ようやく診療報酬を増やすようだが、感謝するよりも、お金をさしあげろ、と私はいいたい。政府も一律10万円配らずに、戦っている医療関係者、介護関係者に配ってほしい)。だが、皐月賞の時点ではまだ10万円は手元にないから、まずは皐月賞を考えることにしよう。

前週のG1桜花賞(4月12日)を、持ち回りでこの連載を執筆しているかんべえ(吉崎達彦)氏も山崎元氏も見事に外したようだが、なぜ優秀な彼らが外したか考えてみよう。

それは、勝ったデアリングタクトが過剰人気だったからである。投資のプロとしては、過剰人気の馬に手を出してはいけない。来るかもしれなくても切る。これがプロの投資的ギャンブラーのセオリーだ(だから某編集者はただのギャンブラーとして桜花賞を的中させた。彼はこの話に納得していないようだが、私は理屈抜きのギャンブラーの才能はありそうだと思う)。

馬券の買い方としては、株式投資と同じく、「ファンダメンタリスト」と「アービトラージャー」の2つのやり方がある。

株式ではバブルというモーメンタムがあるので、アービトラージ(裁定取引あるいは文脈によっては逆張り)は必ずしも有効でない。だが、競馬は真実を割安に買うのが正しいので、本来であれば、常にアービトラージ、過剰な人気馬は避け、人気の盲点になっている実力馬を買うのがセオリーだ。

しかし現実はセオリーどおりにはいかない。なぜかというと、競馬は株式投資と違ってポートフォリオが組めず、また一度きりの勝負、リスクではなく「フランク・ナイトの不確実性」だからである。さらに現実的に、割高なもの、過剰人気のものを空売りできない。そうなると、裁定取引は成立しない。だから、人気であっても、強い馬はある程度買わないと(山崎さん的にいうと「押さえないと」)いけない。

皐月賞では過剰人気に見える馬を敢えて買うワケ

特に3歳クラシックの競馬はそうである。古馬だと実力がかなりの程度分かっているから、人気の盲点をついて平均的に儲ければよい。だが3歳の春ではまだ実力が分かっておらず、これを見抜くことで勝てる可能性も高い。

そうなると、データよりも現場である。現場で馬を実際に見ている人たちは分かっている可能性がある。ではこの場合、過剰人気は何を意味するか? データを客観的に見ると買えない過剰人気とは、現場からの情報ではないか。馬を観察して実力を見抜いている人が買っているから人気になっているのではないか。実際「(桜花賞馬となった)デアリングタクトは現場の評判がよい」、ということが、われわれ競馬ファンにすら伝わってきていた。それにしても過剰人気、ということで切ってしまったのだが。

桜花賞と競馬のセオリーの話が長くなったが、皐月賞は3強。コントレイル(1枠1番)が1番人気で、サリオス(4枠7番)とサトノフラッグ(3枠5番)が2番人気を分け合う感じか。後の馬は大きく離された人気だろう。

19日当日は逆に、この3頭の中から過剰人気に見える馬をあえて買ってみたい。それは現場の情報を織り込んだ価格だからだ。私はサリオスとサトノフラッグで人気のあるほうを買ってみたい。単勝。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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