ブランド化する「イチゴ」知られざる開発の裏側 どんどん大きく、甘くなっている理由とは

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栃木県が自県のブランド品種として売り出すスカイベリーが市場に出たのは、2013年頃からだ。

スカイベリーは、1粒の重量が平均28gで15gのとちおとめの倍近くあり、酸味が少なく濃厚な甘みを持つ。贈答用にふさわしい、逆円錐形の美しさを誇る。病気になりにくい特徴も持っていて生産者にとっても取り組みやすく、今や生産面積が栃木県内のイチゴ栽培の1割弱を占めるほどになっている。

「大粒で甘い」。現在主流となっているイチゴのトレンドを作ったのは、福岡県が開発したあまおうだ。とちおとめなどの新しい品種が色づきやすかったことから、とよのかの色が薄くなりがちな点が目立つようになった。そこで開発したあまおうは、色づきがよく光沢もよいため、着色のための作業が軽減された。また、小粒のものに比べて細かい作業も減る。

2002年から導入されると、栽培面積が急速に広がり、4年後には福岡県のイチゴ栽培面積の98%を占めるまでになっていた。しかし、福岡県のブランドイチゴは今もあまおう以外に目立ったものはない。

栃木肝入りの「いちご研究所」

一方、栃木県は定番のとちおとめのほか、スカイベリーや、2010年頃から夏秋出荷で洋菓子店やホテルなど業務用に出荷する「なつおとめ」、2019年から出回る白い「ミルキーベリー」など、特徴のある品種を次々と出している。

そんな栃木県には、イチゴを開発する全国唯一の県の専門研究機関、栃木県農業試験場いちご研究所がある。

栃木が開発するミルキーベリーは、最近はやりの白色イチゴだ(筆者撮影)

設立は2008年10月。植木一博所長によると、「栃木県の農産物でイチゴはコメ、生乳に次ぐ3位で、農産物全体の1割を占める。もともとここは、農業試験場の栃木分場としてイチゴと麦を研究していたのですが、麦が本場に移動することで、イチゴに特化した」。

主力農産物のイチゴの生産力をさらに高めるため、栽培しやすさ、品質の高さだけでなく、経営や流通面からの調査分析も行い、多角的に品種開発を行うようになった。試験栽培を生産者に委託し、栽培のしやすさ、あるいは品種開発への要望などもヒヤリングしている。栃木県がこの10年で次々に、ターゲットを明確にした品種を開発しているのは、専門研究機関ができたからだったのだ。

イチゴが県でブランドになる理由を、植木所長は「蔓を使った栄養繁殖をするイチゴは、種による繁殖と比べて増える倍率がけた違いに低く、1株から30株しかできません。しかも1年に1回しか栽培できないため、長い栽培期間と広い土地が必要になる。民間企業では経営的に難しいので、今の品種はだいたい県の農業試験場が開発しています。その結果、地域の顔になってブランド化でき、県のPRができるのです」と説明する。

栃木県でイチゴ栽培が盛んなのは、「栽培に適した条件が整っているから」と、植木所長は話す。もともと稲の裏作として栽培していたが、収益力が高いことから稲作をやめてイチゴをハウス栽培する生産者が増え、収穫量が日本一になった。その後まもなく減反政策が始まったという時代背景も、イチゴ栽培に力を入れるきっかけになったと思われる。

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