楽天、携帯事業でいきなり「軌道修正」の誤算 エリア外の通信上限を急きょ5GBに引き上げ

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だがこれは建前で、不可思議なタイミングでの変更の背景には足元の苦戦がある。楽天モバイルは現時点での携帯事業のユーザー数を公表していないが、関係者によるとキャンペーンの上限300万人をはるかに下回っているという。通信サービスを1年間無料にすると大きく謳いながらもユーザーの獲得がうまくいっていない背景には、2つのボトルネックがある。

1つは、楽天モバイルのサービスが実際には無料では使えないことだ。楽天モバイルは1年間の通信サービス無料キャンペーンの条件として、同社指定のスマホ端末を使うことを条件としている。ほぼすべてのユーザーはまだ持っていないため、楽天モバイルが発売しているスマホ端末を新たに購入しなければならないのだ。

通信業界に詳しいMM総研の横田英明常務は、「指定のスマホ端末は安いもので2万円くらいするが、楽天モバイルの通信品質はまだどれほどのものになるかわからない。お試し感覚のユーザーからすればその初期コストがバカにならない」と指摘する。

ローミング費用という重荷

そしてもう1つの難点が、前出のKDDIのローミングエリアで使えるデータ容量の少なさだ。MM総研の調査によれば、平均的な月間のデータ使用量は5~6ギガバイトだという。「自社の通信網エリアがまだ狭いのに、ローミングエリアの月間上限が2ギガバイトでは明らかに足りなかった」(横田氏)。

楽天モバイルもさまざまな市場調査をしてきているはずだが、ローミングエリアの上限を低く設定していたのは、コスト面の問題があるからだ。KDDIが公表している約款によると、楽天モバイルはKDDIへのローミングで1ギガバイトごとに465円の使用料を支払うことになっている。キャンペーンで1年間は通信料金がほぼ入らないため、このローミング費用は非常に重い。

そのため楽天モバイルは、ユーザーへの訴求効果とコスト面の両方を見てローミングエリアの上限を決める必要があった。それをプラン発表からわずか1カ月でいきなり引き上げるということは、元々のプランで一定のユーザー数を獲得できるという見通しが甘かったとしか言えない。

決して順風満帆とは言えない現状を表す象徴的な出来事も起こった。楽天モバイルの常務だった大尾嘉宏人氏、副社長だった徳永順二氏が2020年3月、相次いで退社したのだ。大尾嘉氏は長年、楽天モバイルの格安スマホ事業を牽引してきた大きな存在だった。徳永氏は元ソフトバンクの渉外担当で、2019年8月に招聘したばかり。電撃退社の背景には方向性をめぐる対立があったとみられる。

自社通信網の整備加速にも限度があるとみられる中、ローミングが続く間のユーザー獲得と採算のバランスを今後、どのように取っていくのか。楽天モバイルは船出から早々に難題に直面している。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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