この在庫増の状況に業を煮やした全国農業協同組合中央会(JA全中)は、「商品券がだめならタダで配れ」といわんばかりに、高級和牛の1万円相当を消費者5000人に無料配布する前代未聞のキャンペーン(4月10日に応募締め切り終了)を行った。
一時は申し込みサイトの閲覧が難しくなるほど応募が殺到した反面、「無料で配らなくても半値以下などで安売りすればいい。手塩にかけた農家への配慮不足」などとする批判的なコメントが相次いだ。
もともと、この和牛の当選者はほんの20人だったところを、在庫処理のために急きょ250倍の5000人に拡大するほどの大盤振る舞いだった。
だが、和牛商品券をめぐるバッシングの後だったこともあり「あくまで安売りはしない」との和牛ブランドへの配慮から無料配布となったと考えられる。
農林水産省は4月7日に決定した緊急経済対策をもとに、和牛を卸売り業者が小売業者などに販売した際に1キロ当たり1000円の奨励金を公布するなどの500億円規模の支援を決めている。スーパーなどでの販売促進を進めたい考えだ。また畜産農家が出荷する牛1頭当たり2万円を支給し生産者も支える方針だという。
ただ、今回のように予算での対応ができるなら、はじめから商品券という形にこだわる必要はなかったのではないかという疑問が否めない。結果的に、今回の一連の騒動は自民党農林族の戦略ミスだったと批判されても仕方ないだろう。
飼料代の高騰が真の懸念材料
「結局、和牛商品券は在庫を抱える食肉卸大手に対する保護であって、畜産現場の支援にはならない」
北海道で畜産業を営む男性はこう打ち明ける。男性によれば、和牛の枝肉価格の変動による損失は肉用牛肥育経営安定特別対策事業(通称:牛マルキン)である程度は補填される。また、和牛の枝肉価格と同じく素牛(もとうし:肥育開始前の牛)の市況価格も下落しているため、肥育農家の仕入コストは削減され、直接のダメージは軽減される。
そのうえで「本当の懸念材料は飼料の高騰だ」と指摘する。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら