診療報酬が大幅削減 揺さぶられる在宅医療 介護施設や高齢者住宅で受ける在宅医療に深刻な影響。

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具体的には、月2回の定期訪問を前提に受け取れる「在宅時医学総合管理料」(在総管)などの点数が4月以降、従来の4分の1以下に。基本報酬の「訪問診療料」もほぼ半額になる。看取りに関する加算増加もあるものの、経営の屋台骨を揺るがす事態だ。

同クリニックは診療を継続するために、家賃が安い物件に移転する。村上院長は「制度を見直す際には、移動距離が長く、雪深い過疎地の事情も踏まえてほしかった」と訴える。

在宅医療そのものに大きな影響を与えかねない

千葉県佐倉市にある「さくらホームクリニック」の近藤精二院長も、2月12日付の診療報酬改定の内容に衝撃を受けた。在宅患者のほとんどが有料老人ホームや高齢者住宅に入居しているためだ。

その後、3月5日に厚労省が緩和策を発表。月2回の定期訪問のうち1回については、同じ日に介護施設などの同一建物で複数の患者の診療をしても、報酬は減額されないことが決まった。また、4月から常勤医3人体制に拡大することで報酬体系が向上。その結果、「大幅減収にはならないで済みそうだ」(近藤院長)と胸をなでおろす。

とはいえ、「医療の内容が同じでありながら、一軒家の患者さんと、施設で暮らす患者さんの間で、診療報酬に大幅な格差が設けられたことに合理性があるとは思えない」と近藤院長は疑問を抱く。

在宅医療に詳しい小野沢滋・北里大学病院トータルサポートセンター長は「高コストになりがちな在宅医療のあり方に見直しを迫るという点で、今回の改定の意義は大きい。ただし点数引き下げで悪質な業者を排除できるかどうかは疑問」と指摘する。下手をすると、せっかく根付き始めた在宅医療そのものに大きな影響を与えかねない。

週刊東洋経済2014年4月5日号〈3月31日発売〉核心リポート02)

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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