《中国・アジア市場攻略》現地企業と組むダイキン、核心技術を渡しエアコン世界一を狙う
一方で、提携メリットも大きい。まず、価格競争力が得られる。格力の年間生産台数は約2000万台と、日本市場の年間販売台数の3倍近くを一社で生産する。規模のメリットを生かし、部品メーカーとの価格交渉力は圧倒的。提携により格力と共同で部品メーカーから調達できれば、生産コストを2割減らせる計算である。
大量生産化のノウハウも手に入る。たとえば金型生産では、日本式はバリ(金属材料を切った際にできる出っ張り)を出さないようにコストをかけて高度な装置を適用する。だが格力は安い樹脂部品装置を使用して金型を生産。当然バリが発生するが、賃金の低い工場スタッフの手作業で削る。生産工程内の作業が増えても、トータルの生産コストを抑える仕組み。萩原常務も「モノの作り方が決定的に違う」と舌を巻く。
ダイキンの成長戦略には格力との提携が欠かせない。そう判断した井上会長の執念もあり、日中を代表するメーカーのタッグは誕生した。
懸念された技術の流出については、ちょっとした仕掛けで防御している。製品の共同開発に際しては格力側には、製品の共同開発で必要な技術仕様書やデータをすべて開示している。ただ、インバーター装置そのものはパッケージで渡すため、これだけでは電流を制御するプログラムがどのように組み込まれているか読み取れない。いわば技術の「ブラックボックス化」だ。
インバーターは製品の性能や馬力によってプログラムを巧みに変えなければ、圧縮機を効率よく制御できない。この「すり合わせ」のためのコンピューティングこそが、最も高い技術を要する。現状では、仮に格力が他の製品へ転用しても、効果が小さいというわけだ。
提携の裏にある野望 ボリュームゾーン攻略へ
ただし数年後には、そのプログラムを読み解かれる可能性はある。ダイキンはさらに技術開発を進めることで一段の高度化を図る方針だが、中核技術を吸収される危険を完全に払拭できているとは言いがたい。それでも、格力との提携に踏み切ったのは、ダイキンの野望が秘められているからにほかならない。
同社は「エアコン世界一」という中期計画を掲げている。首位の米キャリア社とは売上高にして数百億円の差。大型から業務用、ルームエアコンまでラインナップをそろえ全世界で展開するメーカーは、ほぼこの2社に限られるが、日本や北米市場が頭打ち状態の中、念願の世界一を確実に奪取するためには「(新興市場の)ボリュームゾーンを攻めていく必要がある」と井上会長は強調する。