《中国・アジア市場攻略》現地企業と組むダイキン、核心技術を渡しエアコン世界一を狙う
価格競争力を得るために手渡したものは、歳月をかけて進化させてきた「中核技術」だった。
エアコン販売世界2位のダイキン工業は、中国のエアコン最大手・格力電器と共同開発した製品を2009年10月に発売した。普及価格帯のインバーター搭載エアコンで、当面は中国での展開が中心だが、いずれは海外投入も視野に入れる世界戦略製品だ。
ダイキンはインバーター搭載の高品質エアコンで世界シェア約20%を持つ。対する格力は、インバーター市場よりもはるかに広いノンインバーター(インバーターを搭載しない低価格製品)市場で世界シェア約30%を誇る。これまで対極の領域をひた走ってきた両社が、今回の開発に際しては互いの強みを持ち寄った。格力はローコスト生産のノウハウを提供。一方、ダイキンが開示したものはインバーター技術である。
インバーター。エアコンの省エネ性能を高める際に「キモ中のキモ」となる技術だ。搭載すれば圧縮機を制御し、きめ細かく室温をコントロールできる。約30年前に日本メーカーが世界で初めて開発したとされ、ダイキンは20年ほど前に開発に着手。現在はインバーター専任の役員を設け、40名弱の開発チームが技術革新に取り組んでいる。
格力も独自開発しているが、日本メーカーの性能には遠く及ばないという。日本の技術はのどから手が出るほど欲しかったに違いない。ダイキンはなぜ、このコア技術を渡す大胆な提携に踏み切ったのか。
提携交渉への猛反発 技術流出防止の秘策
ダイキンと格力がガッチリと握手を交わしたのは2008年3月のこと。圧縮機や金型の共同生産、原材料や部品の共同購買、そして普及価格帯のインバーター搭載エアコンの共同開発など5分野もの提携が発表された。この提携に対しては当初、ダイキン内の反発がすさまじかった。
「今すぐに辞表を出せ」--。07年12月27日。ダイキン本社が入居する大阪市内にある高層ビルの24階。ここにある会長室で、井上礼之会長は目の前にいる萩原茂喜常務にそう迫った。技術部門トップの萩原常務は、反対派の急先鋒だった。
反対したのも無理はない。提携に踏み切るにはリスクが伴った。格力が提案してきた技術提供を実行すれば「ダイキンの強敵になる」(萩原常務)。大量生産システムを確立している格力が性能のよいインバーター製品を量産化すれば、ダイキンは市場からはじき飛ばされる可能性がある。
さらに、それ以上に懸念されたのは、技術の流出だ。格力にインバーター技術を吸収されるだけでなく、中国で模倣品が瞬時に広まる危険もある。