プレサンスに試される巨大個人商店からの脱却 関西の猛者が関東エリアの覇者の軍門に

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社長を辞任しただけでなく、大株主としての山岸氏の影響力は大きく削がれ、横領疑惑に対する一定の措置は果たされた。2020年3月31日には第三者委員会からの調査報告書を公表済み。プレサンス自身も再発防止策を発表したことで事件のみそぎを済ませ、金融機関からの支援を再開させたい構えだ。

出直しとなったプレサンスだが、これまでどおりの成長軌道を描けるかどうかは別問題だ。懸念の1つは、柱であるワンルームマンションの先行きに不透明感が漂っていることだ。2021年3月期に引き渡し予定のワンルームマンションの受注残は931戸(2019年12月末時点)。2018年12月末時点で、2020年3月期に引き渡し分の受注残が1597戸あったことを考えると、大きく見劣りする。

事件の影響がなくとも、プレサンスにはワンルームマンション開発を急がなければならない事情がある。この数年、プレサンスはホテルの一棟売りを積極化しており、2019年3月期には176億円の売り上げを計上した。だが、インバウンド需要を見込んだホテル開発が急増し、地盤である関西でのホテルは供給過剰に陥った。

「巨大化した個人商店」からの脱却

そのため、2020年3月期からはホテル用地の仕入れを打ち止め、「ホテルで作っていた数字はワンルームで稼ぐ」(山岸氏)としていた。とはいえ、新型コロナウイルスの影響で対面での営業が制限されている中、これまで以上にワンルームマンションの契約を積み上げることは一筋縄ではいかないだろう。

もう1つは、プレサンスのガバナンス体制だ。山岸前社長の横領容疑にかかる調査報告書では、同社を「巨大化した個人商店」と指弾し、ガバナンス上の問題のほとんどがここに起因するとしている。開発担当者は上長の頭越しで当時社長であった山岸氏とやり取りをしていた。それが迅速な仕入れが可能になり、案件がプレサンスに優先的に持ち込まれるというメリットがあった。

他方で、山岸氏を諫言しづらい雰囲気が醸成され、暴走を止められなかった。報告書は「プレサンスの取締役が、いまだに山岸前社長の不動産事業に関する深い知見と洞察力に畏敬の念を有している」と指摘する。

船頭を失ったプレサンスの舵取りを誰が担うか。同業他社からは「プレサンスを救えるのは、オープンハウスしかいなかった」とも言われる。1997年にオープンハウスを創業した荒井正昭氏は現在も社長を務め、株式の4割を保有する大株主だ。創業者が強力なリーダーシップをもって企業を牽引する姿はプレサンスと重なる。

山岸氏の辞任を受けて指揮を執るのは、創業初期の1999年に入社し、直前は副社長だった土井豊氏。属人的なリーダーシップに頼る構造を改め、「巨大化した個人商店」からの脱却を図れるのか。それこそが今後の成長を占う試金石となる。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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