片岡:そうでしょう。「障がい者千人雇用」をやる前は、障がい者を持つ親が市役所にやって来て、さんざん文句言うわけ。やれ教室にスロープがないとか、先生がえこひいきをするとか、あの先生を変えろ、とか。そんなのばっかりだったの。ところが「障がい者千人雇用」をやるようになって、就職できた障がい者の方が増えてきたら、親たちが僕にこう言ったんです。
「市長さんね、あなた障がい者を子どもに持ったことないから、わからないと思いますけど、この子を学校に行かせるまでが、毎日、もう大変なんです。靴下は履けません。ご飯を食べてる途中で、急にてんかんで倒れたりもするし、グズグズグズグズ奇声を上げて、家の中で暴れまくって、ガラスを割ったりもします。家に帰ってきたら部屋の中で卵を投げて遊んでいて、家中卵だらけ。毎日、毎日、そういうことばっかりです。朝、この子をバス停まで送っていったら、やれやれと思うんですけど、そんなつらい日々をどれだけ積み重ねても、どうせこの子は学校を卒業したら行くところがないし、社会は絶対、迎え入れてはくれない。そう思って途方にくれていました。だけど、この子たちが高等支援学校を卒業したら、総社市が本当に全員就職させてくれて迎え入れてくれるって、約束をしてくれた。――ああ、私、あそこまで泳いで行ったら、この子が生きて行ける場所がある。そう思うと毎日が我慢できる」って言うんですよ。それを聞くと、よかったな、と思います。
坂之上:なんだか涙が出そうです。
障がい者が入社して、会社の団結力が上がった
坂之上:初めは企業側も「障がい者を雇うって、そんな……」って言いませんでしたか。
片岡:はい。企業は、絶対、採りませんでした。
坂之上:想像に難くないです。
片岡:企業は、最初はそんな足手まといを雇うよりも、罰金払ったほうがいい、なんて考えるのです。ところが、雇ってみるとだんだんわかってくるんですよ。彼らをひとり入れると、職場の団結力が上がるとか。
坂之上:そんなに効果が見えるのですか?
片岡:そう。それから社員が優しくなったりね。中の雰囲気が良くなる。で、だんだんだんだん、採る会社が増えてきて。
坂之上:採用した会社の様子を聞いたり、横で見たりして。
片岡:そうです。あんまりね、彼らに対してかわいそう、かわいそうじゃだめなんですよ。もっと普通に肩をぽんとたたいて、「働け」みたいにやってくれたほうがいいんです。障がいの「害」をひらがなで書かないといけないとかね。そういうもんじゃないと思います。彼らも頑張れよ、ぐらいのほうがうまくいくんです。僕ら総社市では、軽い知的障がいの子どもなら、普通に受け入れられるようになってきた。
坂之上:それは会社側が経験値を積んだからですね。
片岡:そう。頑張ったら彼らが納税者に変わる。それが総社市ではだんだん普通になってきました。
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