どの政治家も苦手なことを、総社市の得意技にしていきたい
坂之上:そもそも、なぜ障がい者雇用に取り組もうと思ったんですか?
片岡:全国には813の市があって、813人の市長がいます。だけど全国の市長たちはほとんど障がい者を見ていません。市町村が見ているのは、小・中学校の中にある特別支援学級の子どもたちだけ。高等学校は「県」の仕事になってしまい、県立の特別支援学校になってしまう。だから、「市」は見て見ぬふりをしてきた。しかも、雇用の斡旋なんて、ほんとうは市町村がやってはいけないんです。仕事を紹介していいのは、国が運営しているハローワークだけ。僕ら市役所がやりたくても、やっちゃダメなんです。
だけど、障がい者の方々が実際に住んでいるのはここ、この市、総社市なんですよ。なのに、これまで僕らは障がい者を見てきませんでした。そこは深い反省に立たないといけません。
全国に813人の市長がいて、国会議員は衆参合わせて700人ぐらいいるでしょう。知事がいて、市会議員や地方議員もいて。政治をやっている彼らに、不得意な政策はなんですか、って聞いたら、たぶん、みんなほとんど同じことを答えると思います。それは障がい者雇用、買い物難民、農業、高齢者介護、それから外国人との共生。それぐらいのもんです。どの政治家も弱点だと思ってる分野を、うちの市が得意技に変えていきたいと思ったんです。実は、この5分野はどれも国がやるべきことなんですよ。
坂之上:ほんとうは国がやらなくちゃいけないことを、市でやろうという考えなんですね。
片岡:そうです。国の法律というのは「束ね」がでかすぎて。やっぱり、地元に近い僕らが動かないと、うまくいかない。今ね、障がい者は、全人口の4%ぐらいといわれています。僕らが残りの96%に生まれて来ることができたのは、彼らが、僕らが持つはずだった障がいを代わりに持って生まれてくれたからです。96%側に生まれてきた僕らは、4%の方々に、居場所を提供しないといけないと思うんですよ。
国は、「社員の何%は、障がい者を雇いなさい」みたいに、すぐ義務化するでしょ。そんなふうに形だけやるんじゃなくて、総社市では、企業が彼らを「戦力」として考えているんですよ。この市は、障がい者は貴重な戦力だと考える、そんな社会に変わり始めているのです。
僕らが1000人雇用を達成できたら、813ある市のうち、あちこちが「うちもやる」と、手を挙げるようになる。そうなったら、障がい者の居場所は絶対変わってくる。そう信じています。
それができたら、次は彼らが「老いていく」場所を整えたい。彼らは結婚できない人がほとんどです。けれど要介護にならないかぎり、特別養護老人ホームにも入れず、独り暮らしになってしまうんです。最後は人知れず独居死してしまう人が多い。だから、彼らが安心して老いていける住まいをつくろうと思っているんです。そこで、まず手始めにアパートに、2人ずつの部屋を3つ借りて、6人入居できるようにしました。それをオープンしたら、すぐに埋まった。
坂之上:その視点はありませんでした。親からしたら自分が先立って障がいのある子が独りで残る、それがいちばん心配なことですよね。
片岡:そうですよね。生まれてから死んでいくまでを総社市で完結させることができたら、お母さんたちに、もしも障がいのある子どもを授かったとしても、安心して生みなさい、って言える。そういう文化ができるじゃないですか。
坂之上:それに、働いて、職場で認められて、納税者になるって本人がいちばんうれしいことだと思います。
片岡:総社市では昨年、障がい者を含む39世帯が就労によって生活保護を受けるのをやめて自立しました。
やっぱり、行政にかかわるみんなが不得意だと言っていることを、得意に変えていきたいという気持ちが当然あるし、この国の形を、地域が自立する形に変えていきたいと思っています。これは全国に横たわる課題なんです。
(構成:石川香苗子、撮影: 梅谷秀司)
※ 後編「地方が自立しないと、日本はポンコツになる」に続く
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