パリで暮らす佐野恵美子さんは、頭を抱えていた。「イースターに営業できないのはショコラティエとしていちばん悲しい。1年で一番盛り上がる時期なのに」。佐野さんは、パリ4区でチョコレート店を経営するチョコレート職人だ。フランスで毎年チョコレートがもっとも売れるのは3〜4月のイースター。今年も腕によりをかけて作ったチョコレートを販売するつもりでいた。
しかし、休業してもう3週間になる。理由は小さな店なので、来店客の1メートル間隔が守れないかもしれないこと、「大切な家族を絶対に外で働かせたくない」というスタッフの家族の主張を尊重したこと。日本に住む佐野さんの両親の希望もあった。「イースターの売り上げは、通常の2倍なので大きな痛手です。従業員の給料は条件を満たせば84%国が保証するという「部分的失業制度」の発表があり、申請するつもりですが、家賃などの固定費はかかりますから」。
営業すると表明して炎上したチョコ店も
生活必需品を売る店は、テイクアウトに限り営業できるが、「生活必需品」にチョコが入るかは曖昧なところで、営業するか否かは経営者の判断に任せられる。ある人気チョコレート店が「営業する」とインスタグラムに投稿したところ「従業員の健康を心配しないのか」といったコメントが殺到、炎上して、店が開店を取りやめたエピソードもある。緊迫した状況下で店ごとに事情は異なり、判断は難しい。
パリを代表する高級チョコレートの有名ブランド「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」も「ジャン=ポール・エヴァン」も、パリ全店を閉めている。イースターにパリのチョコレート店の殆どが閉まっているのは、前代未聞だ。「イースターは毎年おじいちゃんとおばあちゃんの住む郊外の家に孫を連れてチョコレートを持って集まりますが、今年はできません。何より高齢者と子供を近づけてはいけませんから」(パリ郊外在住者)。
佐野さんは、刻一刻と変わる状況の中、辛抱強く自宅で待機している。「私と比べものにならないほど大変な人がいますから、ポジティブに踏ん張ります」という心境を教えてくれた。
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