フランスには「solidarité(ソリダリテ)」という言葉がある。日本では馴染みがなく、一言で訳しづらいが、フランス人なら誰もが知る言葉だ。団結、連体、助け合い、といったニュアンスがあり、フランスでは今、SNSでも多用されている。#solidarité のハッシュタグをつけた投稿からは、危機的な状況の中でのあらゆる助け合いの連携や、医療機関への差し入れ、ボランティア情報がリアルに発信されている。
例えば、店を閉めた料理人たちが料理を作って医療従事者に食事を届けている。MOF(フランス国家職人章)を持つ料理人が中心となってSNSで連携を呼びかけながら、病院へ食事を差し入れている。パリのチョコレート店のオーナーが、400キロものチョコレートを医療関係者に寄付したという情報もあった。
「助けることができる人が、助けを必要としている人を助けるべきである、という考え。それもソリダリテです」「フランス人には「ソリダリテ」の精神が流れています。これまでにもテロなど、フランスが危機的な状況になったときこそ「ソリダリテ」を発揮して乗り越えてきました」。いろいろな言葉で、フランス在住者たちは説明してくれた。
励まし合うことが糧になる
パリ18区(モンマルトル)でパティスリーを経営する工藤彩佳さんは、近隣住民の求めに応じて、時間限定で店をオープンしている。「お客さんの4割を占めていた観光客がいなくなりました。界隈の裕福な家族は、パリを離れて別荘へ移りましたから、売り上げはほとんどありません」。
「こんな時期だから食べることくらいしか楽しみがないしね。がんばって店をあけてくれてありがとう、ずっと買いにくるからね」「ケーキ買いに来るくらいの楽しみはないとね。気持ちがダウンしちゃうからね」――。客足は僅かでも、工藤さんはお客さんのこんな声がけに励まされているという。
工藤さんはこうも話してくれた。「医療機関にマスク等を寄付する人もいれば、ウイルスを撒き散らさないよう家にひたすらこもる人もいます。パン屋さんやレジのスタッフに「ウイルスに感染する危険を犯してまで働いてくれて本当にありがとう」と伝えるフランス人がとても多いです。このようなすべての行動がソリダリテに繋がることを彼らは理解し、自然に行動しています。あまりお世辞を言わないフランス人たちにこういう形で感謝されるのは働いている側として非常に心強く、私の大きな糧になっています」
パリでは毎日、夜20時になると拍手が沸き起こる。命を失うリスクを抱えながら最前線で仕事をする医療従事者への感謝を市民が表し、応援しているのだ。
買い物へ行けない高齢者のために「代わりに買い物にいきます」とアパルトマンに張り紙をする若者や「寂しい方、(スカイプや電話で)話し相手になります」というボランティアもいる。
また、フランスでマスクは「病気の人だけがつけるもの」として一般的ではないが、「感染予防」のために使用して一定の効果をあげたとするアジアの事例を見直す動きがある。フランスのファッションブランド「クリスチャン・ディオール」は3月31日から子供服「ベビーディオール」のアトリエで、マスクの生産を始めた。「シャネル」は、5万枚以上のマスクをフランスの医療機関、消防団、警察などに寄付し、今後はオートクチュール、プレタポルテの職人を動員し、防護服と防護マスクの製造を始める計画がある。
それでも「見えない敵」は、猛威を奮い続けている。外出禁止措置が始まった3月17日に6634人だった感染者は、4月7日時点で11倍以上に膨れ上がった。人々は日々緊迫した状況下で助け合い、戦い続けている。
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