政府や自治体は飲食店など中小企業を対象とした補助金や助成金を増やしているが、「申し込みが殺到しており、融資が下りるのは3カ月後。助成金制度も複雑で非常にわかりにくく、手続きを待つ間に店が潰れてしまう」(米田氏)。実際にフランスでは、三ツ星レストランの有名シェフが署名を集め陳情したことで、ロックダウン中の経費や家賃、給与を補填する策が打ち出された。
多くの飲食店では、経費の3~5割を人件費が占める。家賃が1~2割で、残りが食材費となっている。もし緊急融資が降りても、それを元手に家賃や給与を払い続けるうちは、店の収入が激減しているために負債が膨らむばかり。感染がピークアウトして通常に戻っても、マイナスからのスタートとなる。いっそ店を潰すにも、元の状態に戻すのには費用がかかるため、進むも退くも茨の道が待ち受ける。
何よりも辛いのは、コロナが終息する見通しが見えないことだ。「飲食店の半数以上が3カ月後に潰れてしまう事態をリアルに感じている。2021年開催の東京オリンピックで、世界中から人が集まったとき、どこで食事をすればいいのか」(同)。強烈な危機感が署名活動へと突き動かす原動力となっている。
飲食店を救うなら予算は1兆円超え?!
もともと日本の飲食業界は、多くの店が薄利多売で商売をしてきた。数年前から深刻な人手不足に陥り、有名料亭さえも、後継者不在で閉店に追い込まれている。確かに、今や低賃金で修行を積むなどは昔話で、会社員と変わらない給与水準まで改善されている。それでも労働時間が長いゆえ、離職率の高さは変わっていない。
実際に50~60代の有名シェフが集まると、「昔は厨房に着いたらピカピカに掃除されていたが、今は『俺が掃除するからいいよ。お前元気か?』と、気遣うようになった」という笑い話が出てくるほど。従業員の待遇が改善される反面、競争環境は厳しくなるばかりで、客単価は横ばいの店がほとんどだ。平時でさえ、どの店も固定費の増加に悩みながら、綱渡りで店を維持しているに過ぎない。
皮肉にも客から見たこのコスパのよさが、「日本のレストランは安くておいしい」と外国人観光客を呼び寄せた。涙ぐましい努力を続けてきた日本の飲食業界だが、現下のコロナショックによって、もはや崩壊寸前にまで迫っている。飲食店だけでなく、食材の生産者にも波及しており、事態は深刻である。すでに、高級食材や業務用食材がネット通販で安く流通し始めているが、全てをさばくには無理がある。
日本の外食産業の市場規模は26兆円。大手チェーンから家族経営の零細店まで、その裾野は広く、高級店やB級グルメなど独自の食文化を醸成してきた。政府や自治体がコロナによる飲食店の支援策として、家賃や給与補填を決めた場合、予算規模は1兆円を超える可能性もある。難しい判断が迫られるが、検討に時間をかけてしまうと、その間、倒産が相次ぐことも懸念される。事態は日々刻々と深刻さを増している。
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