専門家の予測をうのみにする人が知らない真実 専門分野や経験、学位は予測能力に関係ない

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「塗装の仕事はかなり役に立ったと思う」とイーストマンは言った。その仕事では、亡命を求めている難民や、シリコンバレーの億万長者など多彩な同僚や顧客に出会い、長期間仕事をしたときには、その億万長者とも会話を交わした。イーストマンは塗装の仕事を、「さまざまな視点を集められる肥沃な土地」と表現した。イーストマンは優れた予測者の核となる特徴は、「ありとあらゆることに関しての純粋な好奇心」だと言う。

エレン・カズンズは、法廷弁護士に協力して詐欺行為を研究している。そのため、カズンズの調査は自然に、医学からビジネスまで広範囲に及ぶ。仕事以外でも興味は幅広く、古い工芸品の収集や刺繍、レーザー彫刻、錠前破りなどが趣味だ。

カズンズはイーストマンと同じように、範囲の狭い専門家は情報源としては重要だが、「目隠しをつけているかもしれないと考えておくことが大切。だから、専門家からは事実をもらっても、意見はもらわない」と言う。

イーストマンやカズンズはスペシャリストからどん欲に情報を集め、それを統合する。超予測者のオンラインでのやり取りは、非常に礼儀正しい抗争といった感じで、不快な態度を示さずに異議を唱え合う。稀に誰かが「でたらめを言うな。俺は納得がいかない。説明してくれ」と言ったとしても、「メンバーは気にしない」とカズンズは言う。

彼らは合意しようとしているのではなく、多くの見解を統合しようとしている。テトロックは最も優れた予測者を、「トンボの目を持ったキツネ」と表現する。トンボの目は何万ものレンズで構成されていて、レンズはそれぞれに見え方が異なり、脳でそれを統合する。

「幅(レンジ)」がなければ深さは役に立たない

優れたチームのやり取りの特徴は、心理学者のジョナサン・バロンが「積極的なオープンマインド(active open-mindedness)」と呼ぶものだ。優秀な予測者は自分のアイデアを「テストする必要がある仮説」として見る。彼らはチームメイトを納得させようとするのではなく、チームメイトが自分の考えの誤りを指摘してくれるように促す。

人間にとって、これは普通のことではない。難しい質問をされたとき、例えば「公立校にもっと資金を提供したら、指導と学習の質は大幅に改善されるだろうか」と問われたら、人は自然に「自分の側」に合う理屈をたくさん思いつく。自分の考えが間違っている理由をネットで探そうとはしない。それは、自分と反対の考えを思いつけないからではなく、本能的にそうしないのだ。

重要なのは、何を考えるか(What)ではなく、どのように考えるか(How)だ。優れた予測者は積極的なオープンマインドを持ち、非常に好奇心が強く、自分と反対の見方を検討するだけでなく、積極的に反対の見方を求めて領域を超えていく。積極的なオープンマインドを研究したバロンは、「幅がなければ、深さは不適切になるかもしれない」と書いた。

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