専門家の予測をうのみにする人が知らない真実 専門分野や経験、学位は予測能力に関係ない

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テトロックは予測者のタイプごとにニックネームをつけた(哲学者のアザイア・バーリンの著作からアイデアを借りた)。

「1つの分野について詳しく知っている」視野の狭いハリネズミと、「たくさんの分野のことを少しずつ知っている」統合的なキツネだ。

そのニックネームは、心理学と機密情報収集の世界で有名になった。ハリネズミ型の専門家の視野は深いが狭い。中には、1つの問題だけにキャリアのすべてを費やしてきた人もいた。ハリネズミは、世界の動きについての理論を、自分の専門分野という1つのレンズだけを通して作り上げ、どんな出来事もその理論に合うように曲げてしまう。

「ハリネズミ型」の予測精度は得意分野でも悲惨

テトロックによると、ハリネズミは自らが専門とする1つの流派の中で「一心に働き、曖昧な問題に対して、型にはまった解決策を導き出す」。結果はどうでも構わない。成功しても失敗しても常に自分は正しく、自分の考えをさらに深く掘り進める。そうすることでハリネズミたちは、過去については見事な見解を述べるが、未来の予測ではチンパンジーのダーツ投げ並みだ。

一方のキツネは、テトロックによると、「さまざまな流派から意見を取り入れ、曖昧さや矛盾を受け入れる」。ハリネズミが狭さを代表する一方で、キツネは一つの領域・理論の外側に生息し、広がりを実現する。

ハリネズミたちは自分の専門分野の長期的な予測に関して、特にひどい結果を出した。しかも、その分野で経験や実績を積むと、予測の結果はさらに悪化した。多くの情報を扱うようになればなるほど、どんなストーリーも自分の世界観に当てはめられるようになったからだ。

ハリネズミは、すべての世界の出来事を自分好みの鍵穴から見て、何事に関しても説得力のあるストーリーを作り、しかも威厳を持ってそのストーリーを語る。これはテレビで映える強みである。

テトロックは明らかにキツネだ。2005年に、テトロックは専門家による判断についての長年の研究成果を発表した。それに注目したのが、IARPA(米国情報高等研究開発活動)だ。IARPAは政府組織で、アメリカの機密情報関連の最も難しい課題についての研究をサポートしている。2011年に、IARPAは4年間に及ぶ予測トーナメントを立ち上げ、研究者が率いる5つのチームが予測を競い合った。

参加チームは、誰を採用しても、訓練しても、何を試しても構わない。4年の間、期限の日まで毎日、予測を朝9時までに提出することが求められた。

問題は簡単ではなかった。「EU加盟国のうちの1カ国が、この日までにEUを脱退する可能性はどのくらいか」「日経平均の終値は9500円を上回るか」「東シナ海での銃撃戦で、10人以上の命が失われる確率は」。予測は何度でも変更できたが、全体を通じての正確さで点数が決まる仕組みだったので、締め切り直前に優れた予測をしても、得られる点数は低かった。

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