生産性低迷は「下請けイジメのせい」という誤解 「一部の事例」を一般化するのは間違いのもと

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「大企業による搾取の結果、その他の企業の規模が小さくなっているのではないか」という仮説も、考えられないことはありません。しかし、0.83という強い相関係数が出るほど、搾取の影響が企業規模に直接的に影響することは極めて考えにくいです。

素直に考えれば、規模が小さいから搾取されてしまうのであって、搾取されているから規模が小さくなってしまっているのではないと考えるほうが妥当でしょう。なぜ日本の中小企業の規模が小さくなって、一部が搾取されやすいかについては、本連載の中で真因を追求し、今度、解説したいと思います。

データ数が多いEUとの比較でも結果は同じ

分析4:EUとの比較でも「搾取説」は否定される

ここまでの検証結果をさらに確かめるために、データの数が圧倒的に多いEU28カ国のデータも紹介しておきましょう。

先ほど「中小企業の生産性が低い理由が大企業による搾取なのだとしたら、すべての業種で均等に搾取の影響が生じるはずはないので、業種別の生産性と企業の規模の相関関係は弱くなるはずです」と書きました。そして実は、EU28カ国の企業規模と生産性の相関関係は0.58でした。日本のほうがよっぽど高いのです。

では日本よりEU28カ国のほうが搾取がひどいのでしょうか。しかし、これも理屈に合いません。なぜなら、EU28カ国の中堅企業と小規模事業者は生産性の絶対水準がかなり高いですし、大企業の生産性との格差も日本ほどはないからです。ちなみに、中堅企業の平均社員数はEU28カ国が104.4人なのに対し、日本は半分以下の41.1人です。両者の生産性の違いは、このような企業規模で説明できます。

今回の本で発見したのは、俗説的な特殊論を検証すると、それは一部の経験やエピソードの不適切な一般化にすぎず、日本経済は経済原則に素直に沿った経済であるということです。日本型資本主義を信仰している人は、ただ単に検証したことのない、適当な俗説を信じているだけです。

私は30年間、日本の経済神話を検証して、真実を求めてきました。大半はただの神話でした。今回もそうです。

つまり、大企業による搾取が中小企業の生産性の低さの原因であるという説は、どう考えても理屈が通らないのです。俗説的な感情論でしかないと断じるしかありません。 

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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