生産性低迷は「下請けイジメのせい」という誤解 「一部の事例」を一般化するのは間違いのもと
このように少し調べれば、「思う」「思わない」という俗説的な感情論は事実を捻じ曲げているだけだということが一目瞭然となります。
業種別でも都道府県別でも「搾取説」には根拠がない
日本の生産性が低い理由を「搾取」という特殊要因に求める前に、エビデンスを検証し、一般的な経済原則で説明できるかどうかを確かめることが重要です。
前回の記事(「日本は生産性が低い」最大の原因は中小企業だ)でも説明しましたが、私は日本の生産性が低い最大の原因は、規模の小さい小規模事業者や中堅企業に偏っている産業構造にあると分析しています。規模の問題です。
これが事実であるとすれば、業種別に見ても同じことが言えるはずです。つまり、小さい企業が多い業種は生産性が低くなり、小さい企業が少ない業種は生産性が高くなるというように、生産性と企業規模に強い相関関係があるはずです。
そうではなく、中小企業の生産性が低い理由が大企業による搾取なのだとしたら、すべての業種で均等に搾取の影響が生じるはずはないので、業種別の生産性と企業規模の相関関係は弱くなるはずです。
どちらが正しいか、実際のデータで確認してみましょう。『中小企業白書 2019年版』のデータによると、業種別の生産性と企業規模の相関係数は0.84で、極めて強い相関関係が確認できます。
つまり、一部で大企業による搾取が行われている可能性は否定できないものの、それが中小企業の生産性が低いことの原因ではないと言えます。
この結論をさらに確かめるために、別のデータでも検証してみました。都道府県別の生産性です。私の仮説が正しいなら、小さい企業が相対的に多い都道府県ほど生産性が低くなり、小さい企業が相対的に少ない都道府県は生産性が高くなるという、強い相関が見られるはずです。
逆に「搾取説」が正しいなら、都道府県別の生産性と企業規模の相関関係は弱くなるはずです。なぜならすべての業種のすべての中小企業が搾取されているはずはないので、搾取されやすい業種が多い都道府県の生産性は低くなり、そうではない都道府県の生産性は相対的に高くなるはずだからです。
実際に計算すると、都道府県別の企業規模と生産性の相関係数は0.83と、こちらも非常に高い数字です。これこそ、日本企業の生産性の低さが企業規模で説明できることの証拠です。
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