今なら日本の「医療崩壊」は食い止められる 岡部信彦・川崎市健康安全研究所長の提言

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――重症化しやすい人たちへの対策はどうすればよいのか。

重症化しやすいのは高齢者や基礎疾患がある人たちだ。基礎疾患がある人は、その疾患であること自体が重症化の要因ではない。例えば、糖尿病が危険なのではなく、適切な治療を受けずに血糖値をコントロールしていない人がハイリスクになる。重症化させないためには、通常の保険医療体制を維持し、健康診断や通常診療を維持しなければならない。

医療崩壊が起これば、(医療機関は)新型コロナウイルス患者であふれ、普段の医療も継続できなくなる。なんとか維持するためには、軽症者を含む感染者全体の母数を小さくしないとハイリスクの人も守れない。

緊張を強い続けると本番前に疲れ果ててしまう

――軽症者はどのように行動すればいいのでしょうか。

インフルエンザと同じだ。現役世代はインフルエンザで入院することはほとんどない。治療をしなくても5日も休めば治る。一方、こうした年齢層の感染が広がらないことで、高齢者や子どもなどへの感染を防ぎ、犠牲者が減る。

症状がないのに感染を心配して医療機関に行くと、そこで感染したり、ハイリスクの患者が順番待ちで受診できなくなったりする。だから多くの人にインフルエンザの予防の大切さを呼びかけている。安心感を与え過ぎると軽症者が自由に動いてしまい、重症化しやすい人に感染させてしまう。今は難しい局面だ。

専門家会議で意見が割れたのは、3月19日時点で自粛などを強化するのか、それとも緩めるのかだ。強化すれば、これ以上の感染の広がりを防げるだろう。しかし、緊張を強い続けると、本格的な流行が来る前に疲れ果ててしまう。一般の人だけでなく、行政担当者や医療関係者も疲弊した状態になる。今の流行状態を維持する程度にとどめて、ちょっと息をついてもいいのではないかと。私の意見は後者だったが、多くの人の心理は「のびのび」としてしまったようだ。

学校については、全国一律で感染者が出ていない地域でも休校するのは、感染抑制効果以上に、学校や家族への負担などのデメリットが大きい。子どもの感染者は国内外でも数%程度で、重症者はさらに稀だ。もちろん患者が学校で発生したときは警戒する必要がある。地域別に状況を見て判断すべきではないだろうか。

医療についても病院が密集している地域もあれば、少ない場所もある。人口も年齢構成も異なり、感染拡大状況も地域によって異なる。全国一律ではなく自治体で判断するほうが、より実情に即することができるだろう。ただし、近接地域は自治体間での話し合いが重要になる。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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