Aさんは、今は地元を離れ息子と2人で暮らしている。夫とは離婚調停中だ。向精神薬の服用はいっさいしていない。「看護師として精神病床のある総合病院でも働いたことがあり、あんなことがあるまで精神医療はかつてとは比べものにならないぐらいよくなっているものだとばかり思っていました。ですが、実際被害に遭ってわかったのは、健常者でさえも精神医療の被害に遭っている現実でした」。
見知らぬ男たちに突如、連れて行かれた
既往歴もないのに、何の前触れもなく精神科病院に強制入院させられる。そんな経験をしたのはAさんだけではない。
「寝起きでまだ部屋着姿でいたところ、突然自宅に屈強な男が数人上がり込んできて、靴も履けないまま、玄関前に止まっていた車に連れ込まれました。あまりに突然のことで、スマホを持ち出すことさえもできませんでした」
都内在住の50代女性のBさんは、その日のことを鮮明に覚えていると話す。2011年の冬、普段はパジャマ姿のままで娘の保育園の送り迎えをするような夫が、その日はなぜか早朝から着替えて人を待つような様子だったので、不思議に思っていたと振り返る。夫はその数年前に発達障害の1つのアスペルガー症候群と診断されており、夫婦間にはいさかいが絶えなかった。
見知らぬ男たちによって有無を言わせず車に乗せられ、連れて行かれたのが都内の精神科病院だった。ちなみに「民間移送業者」と呼ばれるこの男たちが、いったい何者なのかについては、今後の連載中で詳しく取り上げていく予定だ。
医師のごく短時間の診察で、夫を同意者として、Bさんの医療保護入院が決まった。その後すぐに隔離室へと連行されたのはAさんと同様だ。「アスペルガーの夫は児童相談所や保健所、警察に私が娘を虐待していると巧妙な嘘をついて、それを真に受けた保健所が協力し、事前に入院の手はずを整えていたことが後でわかりました」(Bさん)。夫が事前に、警察や保健所などに入念に根回しをしていたのは、やはりAさんのケースとそっくりだ。
退院後に開示されたカルテによって、ほぼ夫からの情報だけによって、統合失調症の疑いと診断され、医療保護入院が決まった経緯が明らかとなっている。
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